基礎知識2026年4月16日最終更新: 2026.04.16

この記事の要点

  • 配偶者居住権は民法第1028条に基づき、2020年4月1日施行の民法改正で新設された権利で、残された配偶者が被相続人所有の建物に終身または一定期間住み続けられる制度
  • 成立要件は①配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたこと、②遺産分割・遺贈・死因贈与・家庭裁判所の審判のいずれかで取得すること
  • 配偶者居住権は建物の「使用・収益する権利」のみで所有権ではないため、評価額が所有権より低く、その分の預貯金など他の財産を多く取得できる
  • 第三者対抗には登記(民法第1031条)が必要で、登記義務は建物所有者にある。譲渡・売却はできない(一身専属権)

配偶者が亡くなったあと、残された配偶者が住み慣れた自宅に住み続けられるかどうかは、老後の生活設計を大きく左右する問題です。これまでは、自宅を相続すると預貯金がほとんど受け取れず生活費に困る一方、預貯金を選ぶと自宅を手放さなければならないという「二者択一」に悩む方が少なくありませんでした。

こうした課題を解決するため、2020年4月1日施行の民法改正で新たに創設されたのが「配偶者居住権」です。この記事では、西東京市を拠点とする相続専門家の視点から、配偶者居住権の成立要件、評価方法、メリット・デメリット、登記手続きまで、実務に即してわかりやすく解説します。

配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、被相続人(亡くなった方)が所有していた建物に、配偶者が亡くなるまで(または一定期間)無償で住み続けることができる権利です。民法第1028条に根拠があり、2020年(令和2年)4月1日に施行された改正民法で新設されました。

従来、自宅に住み続けるためには自宅の所有権そのものを相続する必要がありました。しかし配偶者居住権は「所有権」と「居住する権利」を切り分けることで、残された配偶者は建物の所有権を他の相続人(例:子)に譲りつつ、自分は「使用・収益する権利」だけを取得して住み続けられる仕組みになっています。詳細な制度趣旨は法務省のウェブサイトでも説明されています。

配偶者居住権の2つの種類

改正民法では、配偶者の居住を保護する権利として「配偶者居住権(長期居住権)」と「配偶者短期居住権」の2種類が整備されました。以下でそれぞれ解説します。

なぜこの制度が新設されたのか

配偶者居住権が新設された背景には、従来の相続制度における深刻な課題がありました。

従来の問題:自宅か預貯金かの二者択一

例えば、被相続人の遺産が「自宅(評価額2,000万円)」と「預貯金2,000万円」で、相続人が配偶者と子1人(法定相続分1/2ずつ)というケースを考えてみます。従来の制度では、配偶者が自宅2,000万円を相続すると、預貯金は子がすべて受け取るため、配偶者の手元には生活費が残りません。逆に預貯金を選ぶと自宅を手放すことになり、住まいを失ってしまいます。

平均寿命の延伸により配偶者の老後期間が長くなる中、「住む場所」と「生活資金」の両方を確保することが、残された配偶者の生活保障にとって極めて重要になっていました。

配偶者居住権による解決

配偶者居住権を活用すれば、上記のケースで配偶者が「配偶者居住権(評価額1,000万円)+預貯金1,000万円」を取得し、子が「自宅の負担付所有権(評価額1,000万円)+預貯金1,000万円」を取得するといった柔軟な遺産分割が可能になります。配偶者は自宅に住み続けながら、預貯金も確保でき、老後の生活不安が軽減されるのです。

配偶者居住権の成立要件

配偶者居住権が成立するには、民法第1028条に定められた以下の要件をすべて満たす必要があります。

要件1:配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたこと

被相続人が亡くなった時点で、配偶者がその建物に住んでいたことが必要です。別居していた場合は原則として配偶者居住権は成立しません。なお、一時的な入院や施設入所で自宅を不在にしていた場合でも、生活の本拠が自宅であれば居住していたと認められる場合があります。

要件2:建物が被相続人の単独所有または配偶者との共有であること

建物が被相続人以外の第三者と共有されていた場合、配偶者居住権は成立しません(民法第1028条1項ただし書)。ただし、被相続人と配偶者の共有である場合には成立します。

要件3:次のいずれかの方法で取得すること

  • 遺産分割協議:相続人全員の合意により、配偶者が配偶者居住権を取得する内容の遺産分割を行う
  • 遺贈:遺言書で配偶者に配偶者居住権を遺贈する旨を記載する(「相続させる」ではなく「遺贈する」と記載することが一般的)
  • 死因贈与:被相続人と配偶者との間で死因贈与契約を結ぶ
  • 家庭裁判所の審判:遺産分割協議が調わない場合、家庭裁判所の審判により配偶者居住権を設定する

配偶者居住権の評価方法

配偶者居住権の相続税評価額は、国税庁の通達に基づいた計算式で算出されます。簡易な考え方としては、建物の時価から「負担付所有権(建物所有権の評価)」を差し引いた金額が配偶者居住権の評価額となります。

評価の基本式

配偶者居住権の評価では、次の要素を使って算定します。

  • 建物の時価(固定資産税評価額)
  • 法定耐用年数:建物の構造ごとの税法上の耐用年数(木造22年、鉄筋コンクリート造47年など)
  • 経過年数:新築時から相続開始時までの年数
  • 存続年数:配偶者の平均余命(厚生労働省の簡易生命表に基づく)または設定された存続期間
  • 法定利率によるライプニッツ係数:将来価値を現在価値に割り戻すための係数

計算の大まかな流れは、まず「建物所有権の評価額」=建物の時価×(残存耐用年数-存続年数)÷残存耐用年数×ライプニッツ係数で求め、その額を建物の時価から差し引いた残りが「配偶者居住権の評価額」となります。同様に敷地(土地)についても、「敷地利用権」と「敷地所有権」に分けて評価されます。

配偶者が若いほど評価額が高くなる

存続年数(平均余命)が長いほど、配偶者居住権の評価は高くなります。逆に配偶者が高齢であるほど評価額は低くなるため、遺産分割の組み方にも影響します。

配偶者居住権と配偶者短期居住権の違い

改正民法では、配偶者居住権(長期)とは別に、民法第1037条で「配偶者短期居住権」も新設されました。両者は似た名称ですが、性質が大きく異なります。

配偶者短期居住権の概要

配偶者短期居住権は、被相続人の死亡により相続が開始した際、配偶者が相続開始時に無償で居住していた建物について、一定期間(最低6ヶ月間)無償で住み続けられる権利です。遺産分割協議が成立するまでの間、少なくとも6ヶ月は住まいを失わずに生活できるよう保障する趣旨で設けられました。

両者の主な違い

  • 存続期間:配偶者居住権は終身または一定期間/配偶者短期居住権は最低6ヶ月
  • 発生原因:配偶者居住権は遺産分割・遺贈等による取得/配偶者短期居住権は法律上当然に発生
  • 登記の可否:配偶者居住権は登記可能/配偶者短期居住権は登記できない
  • 評価:配偶者居住権は財産的価値として評価/配偶者短期居住権は評価されない

配偶者居住権のメリット

配偶者居住権を活用することで、残された配偶者にとって次のようなメリットがあります。

メリット1:自宅に住み続けながら十分な預貯金も確保できる

冒頭の例のように、配偶者が自宅の所有権ではなく配偶者居住権を取得することで、その分の預貯金を多く受け取ることができます。「住まい」と「生活資金」の両方を同時に確保でき、老後の生活設計が安定します。

メリット2:二次相続時に評価額がゼロになり節税効果がある

配偶者居住権は一身専属権であり、配偶者が亡くなると消滅します。相続されず評価額はゼロとなるため、二次相続(配偶者の死亡による相続)時には課税対象となりません。結果として、世代を通じた相続税負担の軽減が期待できます。これは配偶者居住権の大きな税務上のメリットの一つです。

メリット3:遺産分割協議でのトラブル回避

自宅の所有権をめぐって配偶者と子が対立するケースは少なくありません。配偶者居住権を使えば、所有権は子に残しつつ配偶者の居住を守るという落としどころを作りやすく、協議の円滑化に役立ちます。

配偶者居住権のデメリット・注意点

一方で、配偶者居住権には次のようなデメリットや注意点もあります。導入するかどうかは慎重な検討が必要です。

注意点1:譲渡・売却できない(民法第1032条2項)

配偶者居住権は一身専属権であり、第三者に譲渡したり売却したりすることができません(民法第1032条2項)。現金化できないため、配偶者の資金計画の柔軟性が制約される面があります。

注意点2:増改築・第三者への賃貸には所有者の承諾が必要

民法第1032条により、配偶者は建物の使用収益にあたり「従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって」これを行う必要があります。大規模なリフォームや第三者への賃貸には、建物所有者(通常は子)の承諾が必要です。承諾なく行うと契約解除の原因になり得ます。

注意点3:登記しないと第三者に対抗できない

配偶者居住権は登記(民法第1031条)しないと、建物の新所有者や差押債権者など第三者に対抗できません。相続開始後は速やかに登記手続きを行う必要があります。

注意点4:ライフプラン変更時の使い勝手

配偶者居住権を設定した後に、介護施設への入所や子との同居など、ライフプランが変わる場合があります。その際に自宅を処分して資金化することができないため、将来の資金ニーズによっては使い勝手が悪いと感じる場合があります。合意により放棄することは可能ですが、贈与税の問題が生じる可能性もあるため慎重な設計が重要です。

登記手続き

配偶者居住権を第三者に対抗するためには、建物の所在地を管轄する法務局で登記を行う必要があります(民法第1031条)。

登記義務は建物所有者にある

民法第1031条は、建物所有者に配偶者居住権の設定登記に協力する義務を課しています。通常は、配偶者と建物所有者(子など)が共同で申請します。

登録免許税

配偶者居住権の設定登記にかかる登録免許税は、建物の固定資産税評価額の0.2%(1000分の2)です。例えば固定資産税評価額1,000万円の建物であれば、2万円の登録免許税がかかります。

必要書類

  • 配偶者居住権設定登記申請書
  • 遺産分割協議書または遺言書(登記原因証明情報)
  • 配偶者の住民票
  • 建物所有者の印鑑証明書
  • 登録免許税(収入印紙)

当センターでの対応事例

西東京市にお住まいのAさん(70代女性)は、ご主人が急逝され、自宅(評価額約3,000万円)と預貯金(約2,500万円)を相続することになりました。相続人はAさんと息子さん2人(いずれも独立し東久留米市と新座市に居住)です。

当初は「自宅を相続すると生活費が心配」「かといって自宅を手放したくない」とお悩みでしたが、当センターから配偶者居住権の活用をご提案しました。最終的に、Aさんが「配偶者居住権(評価額約1,500万円)+預貯金1,250万円」、息子さんお2人が「自宅の負担付所有権と残りの預貯金」を取得する内容で遺産分割協議がまとまりました。

Aさんは住み慣れた自宅に終身で住み続けられるだけでなく、十分な老後資金も確保でき、息子さんたちとの関係も円満に保たれました。清瀬市や西東京市周辺でも、同様のご相談が増えてきています。

まとめ

配偶者居住権は2020年4月の民法改正で新設された、残された配偶者の住まいと生活資金を同時に守るための重要な制度です。民法第1028条以下に成立要件や効果が規定されており、登記(民法第1031条)によって第三者対抗力が備わります。

一方で、譲渡・売却ができない、所有者の承諾なく増改築や賃貸ができないといった制約もあり、ライフプランや家族構成を踏まえた慎重な設計が不可欠です。遺言書による遺贈や遺産分割協議での設定方法、評価額の計算、登記手続きなど、専門的な判断が求められる場面が多数あります。

当センターでは、西東京市・東久留米市・清瀬市・新座市エリアを中心に、配偶者居住権の設定をはじめとする相続全般の無料相談を実施しております。配偶者居住権の活用をご検討の方、遺言書作成や遺産分割協議でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

あわせて遺言書の書き方遺産分割協議書相続税の基礎控除についての記事もご覧ください。当センターのサービス内容よくあるご質問もぜひご参照ください。

当センターの実績 西東京市のAさん(70代女性)は、ご主人の死去後、自宅と預貯金の両方を守るために配偶者居住権を設定されました。子世代との遺産分割協議でも円滑に合意でき、安心して老後を暮らせるようになった事例です。

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※免責事項:本記事は2026年4月時点の法令等に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・税務アドバイスを行うものではありません。具体的なご相談は、専門家にお問い合わせください。

この記事の監修

株式会社 相続サポートセンター(みらいグループ)

税理士法人みらいを中心に、行政書士・社労士・不動産の専門家が連携。西東京市を拠点に、相続手続き・遺言書作成のワンストップサポートを提供しています。

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