要 この記事の要点
- 死亡退職金は被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続税法第3条1項2号により「みなし相続財産」として相続税の課税対象
- 相続税法第12条1項6号に基づき「500万円×法定相続人数」の非課税枠が適用される(生命保険金とは別枠で計算)
- 死亡後3年経過後に支給が確定した場合は、相続税ではなく遺族の一時所得として所得税の対象(所得税基本通達34-2)
- 弔慰金(業務上の死亡:給与3年分、業務外:給与6ヶ月分まで)は非課税。これを超える部分は退職金と同様の取扱い
会社員や役員が在職中に亡くなった場合、勤務先から遺族に「死亡退職金」が支払われることがあります。この死亡退職金は本人ではなく遺族が受け取るものですが、相続税法上は「みなし相続財産」として課税対象に含まれます。
一方で、生命保険金と同様に「500万円×法定相続人数」という非課税枠が設けられており、適切に申告すれば税負担を抑えることができます。本記事では、死亡退職金の税務上の取扱いと、弔慰金との違いについて、根拠条文を示しながら詳しく解説します。
死亡退職金とは
死亡退職金とは、在職中の従業員・役員が死亡したことにより、本来であれば本人に支給されるはずだった退職金が、遺族に対して支払われるものです。会社の退職金規程に基づくものや、中小企業退職金共済(中退共)からの共済金、特定退職金共済からの給付金などが該当します。
死亡退職金は、被相続人が生前に受け取る退職金とは異なり、遺族の固有の権利として支払われる場合が多く、原則として遺産分割の対象にはなりません。ただし、税務上は別の扱いになります。
相続税法上の取扱い(相続税法第3条1項2号)
相続税法第3条1項2号は、被相続人の死亡により相続人その他の者が支給を受ける退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものを、相続または遺贈により取得したものとみなして相続税の課税対象とする旨を規定しています。
これは、(1)相続放棄をしても受け取れる場合があるなど民法上は相続財産ではないものの、(2)経済的実態として被相続人の財産から生じた利益と評価できるため、課税の公平を保つためのものです。これを「みなし相続財産」といいます。
非課税枠:500万円×法定相続人数(相続税法第12条1項6号)
死亡退職金には、相続税法第12条1項6号に基づき非課税枠が設けられています。非課税限度額の計算式は次のとおりです。
非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数
ここでいう「法定相続人の数」は、相続放棄者がいた場合でもその放棄がなかったものとして数え、養子は実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までを限度として数えます(相続税法第15条第2項)。
生命保険金とは別枠
死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人数)は、生命保険金の非課税枠(相続税法第12条1項5号、500万円×法定相続人数)とは別に計算されます。両方の制度を併用すれば、相続人の数に応じて1,000万円×法定相続人数までを非課税にできるイメージです。
具体例:相続人3人、退職金2,000万円の場合
法定相続人が配偶者と子2人の合計3人の場合、非課税限度額は次のとおりです。
- 非課税限度額:500万円×3人=1,500万円
- 退職金:2,000万円
- 相続税の課税対象額:2,000万円-1,500万円=500万円
なお、複数の遺族が死亡退職金を受け取った場合は、各人の受取額の比率で非課税枠を按分します(相続税法第12条第2項)。
死亡後3年以内・3年経過後の違い
3年以内:相続税(みなし相続財産)
被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金は、相続税法第3条1項2号により相続税の課税対象(みなし相続財産)となり、500万円×法定相続人数の非課税枠が使えます。
3年経過後:受取人の一時所得(所得税)
被相続人の死亡後3年を経過してから支給が確定した死亡退職金については、所得税基本通達34-2により、受け取った遺族の一時所得として所得税が課税されます。一時所得は、収入から特別控除50万円を差し引いた残額の2分の1が課税対象になります(所得税法第34条)。
退職金の支給確定が遅れる場合、相続税対象になるか所得税対象になるかで税負担が大きく変わる可能性があるため、勤務先に確認することが重要です。
弔慰金の取扱い(相続税法基本通達3-20)
弔慰金は、本来は社会通念上の儀礼として受けるもので、相続税の課税対象にはなりません。しかし、退職金との区別が曖昧な場合があるため、相続税法基本通達3-20に基準が示されています。
業務上の死亡:給与3年分まで非課税
被相続人の死亡が業務上の死亡である場合、被相続人の死亡当時の普通給与(賞与を除く)の3年分相当額までは弔慰金として非課税です。
業務外の死亡:給与6ヶ月分まで非課税
被相続人の死亡が業務上の死亡でない場合、被相続人の死亡当時の普通給与の半年(6ヶ月)分相当額までが弔慰金として非課税です。
これらの額を超える部分は、退職手当金等として相続税の課税対象となり、死亡退職金と合わせて「500万円×法定相続人数」の非課税枠の判定対象になります。
退職金と弔慰金の区分
勤務先から「退職金」と「弔慰金」の両方が支給されることがあります。両者の区分について、税務上の取扱いをまとめると次のとおりです。
- 退職金:就業規則・退職金規程・労働協約等に基づいて支給される金銭。相続税の課税対象(500万円×法定相続人数の非課税枠あり)
- 弔慰金(基準内):業務上死亡で給与3年分、業務外死亡で給与6ヶ月分まで。相続税非課税
- 弔慰金(基準超):上記基準を超える部分は退職手当金等として相続税の課税対象
中小企業退職金共済(中退共)の取扱い
中小企業の従業員が加入する中小企業退職金共済(中退共)の被共済者が死亡した場合、遺族に支給される共済金も死亡退職金と同様の取扱いとなり、相続税法第3条1項2号のみなし相続財産に該当し、500万円×法定相続人数の非課税枠が適用されます。
同様に、特定退職金共済からの給付金、適格退職年金からの一時金等も、それぞれ要件を満たせばみなし相続財産として課税されます。
特定の受取人指定がある場合(受取人固有の財産として遺産分割対象外)
退職金規程等で特定の受取人が指定されている場合、その死亡退職金は受取人固有の財産であり、原則として遺産分割の対象にはなりません。一方、税務上は「みなし相続財産」として相続税の課税対象になります。
このため、相続放棄をした人が死亡退職金を受け取ることもあり得ますが、その場合は500万円×法定相続人数の非課税枠は使えません(相続税法基本通達12-8)。相続放棄者が受け取った死亡退職金は、その全額が相続税の課税対象になります。
申告手続き
死亡退職金を受け取った場合は、相続税の申告書(第10表「退職手当金などの明細書」)に以下を記載します。
- 退職手当金等の支払をした者の氏名・名称
- 受取年月日・受取金額
- 受取人の氏名と続柄
また、勤務先から「退職手当金等受給者別支払調書」が税務署に提出されるため、申告漏れは把握されやすい財産です。必ず正確に申告しましょう。
当センターでの対応事例
まとめ
死亡退職金は、相続税法第3条1項2号により「みなし相続財産」として相続税の課税対象となりますが、相続税法第12条1項6号に基づき「500万円×法定相続人数」の非課税枠が認められています。生命保険金の非課税枠とは別枠なので、両方を併用すれば大きな節税効果が期待できます。
一方、弔慰金は業務上死亡で給与3年分、業務外死亡で6ヶ月分まで非課税で、それを超える部分は退職金と合算して扱われます。死亡後3年経過後の支給は所得税扱いになるなど、細かなルールがあるため、税理士による申告書作成をお勧めします。
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