要 この記事の要点
- 生活保護受給者が相続を受けた場合、生活保護法第61条に基づき福祉事務所への届出義務がある(収入・資産の変動の申告)
- 相続財産は「資力」と評価され、生活保護法第4条1項(補足性の原則)により生活保護費の停止または廃止の理由となりうる
- 生活保護受給者が相続放棄をすることは原則として認められない:判例上「処分権の濫用」とされる場合があり、福祉事務所が認めない場合も多い
- 既に受給した保護費は、生活保護法第63条に基づき返還を求められる場合がある(資力があったにもかかわらず受給していた期間分)
生活保護を受給している方が相続人となった場合、相続財産の取扱いは通常の相続とは異なる注意点があります。生活保護法上の届出義務、保護の停止・廃止、過去保護費の返還義務など、慎重な対応が必要です。
この記事では、生活保護受給者が相続を受けた際の法的な取扱いと実務上のアドバイスを、西東京市の相続専門家が解説します。
生活保護受給者の相続:原則と現実
生活保護受給者であっても、民法上の相続権は当然に認められます。生活保護法によって相続資格を失うことはありません。しかし、相続によって取得した財産は「資力」となり、生活保護制度の補足性の原則(生活保護法第4条1項)に抵触するため、保護の停止・廃止につながる可能性があります。
生活保護法の補足性の原則(第4条1項)
生活保護法第4条1項は、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と規定しています。これを「補足性の原則」といいます。
相続によって預貯金・不動産などの資産を取得した場合、それらをまず活用することが求められます。資産が十分であれば、生活保護を継続する理由がなくなるため、保護の廃止が検討されます。
相続発生時の届出義務(生活保護法第61条)
生活保護法第61条は、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない」と定めています。
相続による財産取得は「収入・資産の変動」に該当しますので、必ず福祉事務所(ケースワーカー)に届け出る必要があります。届出を怠ると、後で発覚した場合に保護費返還請求や保護廃止につながります。
相続放棄は原則として認められない
判例の傾向(権利の濫用)
生活保護受給者が相続放棄をすることは、判例上、原則として認められない方向性が示されています。最高裁平成23年3月18日決定では、相続放棄が「資力の活用義務」(生活保護法第4条1項)に反する場合、相続放棄が無効となるか、または福祉事務所が保護廃止・返還請求を行うことが容認される傾向にあります。
受給者の意思で相続放棄をしても、福祉事務所が保護費を返還請求することは可能であり、結果として相続放棄をしても生活保護受給を継続できないケースが多いのが実情です。
例外的に認められるケース(被相続人が借金のみ等)
例外的に、被相続人の財産がマイナス(借金が大半)であるなど、相続が受給者にとって不利益な場合は相続放棄が認められることがあります。この場合は、ケースワーカーに事前相談し、財産目録を提示した上で判断を仰ぐことが重要です。
相続による保護の停止・廃止(生活保護法第26条)
停止:将来の保護再開の可能性あり
相続財産が多額ではないが、当面の生活費を賄える程度ある場合は、保護を「停止」する判断がなされることがあります。停止期間中は保護費の支給が止まりますが、財産を消費して再び生活困窮状態になれば、保護の再開が可能です。
廃止:保護打切り
相続財産が十分にあり、長期にわたって生活を維持できると判断される場合は、保護の「廃止」となります。廃止後は、再度生活困窮状態となった場合に新規申請をやり直す必要があります。
過去保護費の返還義務(生活保護法第63条)
生活保護法第63条は、「被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない」と定めています。
例えば、被相続人が生前に死亡保険金の受取人を受給者に指定していたのに本人が知らずに受給を継続していた場合、後で発覚すると、その期間に受けた保護費の返還を求められることがあります。実務上、相続発生時点に遡って計算されるケースが多く見られます。
相続財産が少額・換金困難な場合の取扱い
相続した財産が少額(数十万円程度)や、換金困難な財産(古い不動産、相続人が居住している自宅など)の場合は、必ずしも保護廃止とはなりません。具体的には以下のような対応がなされます。
- 少額の預貯金:必要最低限の生活費の数ヶ月分を超える部分のみ収入認定
- 居住用不動産:処分価値が低く、本人が居住している場合は保有が認められることが多い
- 処分困難な不動産:売却を試みても買い手がつかない場合は保有が黙認されることも
個別の判断はケースワーカーや福祉事務所と協議の上で決定されます。
同居家族の相続と保護の関係
生活保護は「世帯単位」で受給するのが原則です(生活保護法第10条)。同居している家族が相続を受けた場合も、世帯全体の収入・資産として評価され、保護の継続可否が判断されます。同居家族の相続も必ず届け出る必要があります。
実務上のアドバイス
ケースワーカーへの早期相談
相続が発生したら、まず担当のケースワーカーに早期に相談しましょう。届出を怠ると、不正受給と判断される恐れがあります。相続発生から速やかに(一般には数日〜2週間以内が望ましい)報告するのがよいでしょう。
弁護士・司法書士への相談
相続放棄の可否、相続財産の評価、過去保護費の返還義務など、判断が難しい論点が多くあります。弁護士・司法書士など相続の専門家への相談をおすすめします。法テラスの民事法律扶助制度を利用すれば、収入要件を満たす場合に無料法律相談・代理援助を受けることができます。
当センターでの対応事例
まとめ
生活保護受給者が相続を受けた場合、福祉事務所への届出義務があり、相続放棄は原則として認められません。相続財産の内容によっては、保護の停止・廃止や過去保護費の返還が問題となります。
判断の難しい事例ですので、必ずケースワーカーや専門家と相談の上で対応してください。当センターでは無料相談を実施しておりますので、お気軽にご相談ください。
相続放棄の手続き方法や相続の相談先、相続手続きの流れについても、あわせてご確認ください。当センターのサービス内容やよくあるご質問もぜひご覧ください。