基礎知識2026年5月23日最終更新: 2026.05.23

要 この記事の要点

  • 生活保護受給者が相続を受けた場合、生活保護法第61条に基づき福祉事務所への届出義務がある(収入・資産の変動の申告)
  • 相続財産は「資力」と評価され、生活保護法第4条1項(補足性の原則)により生活保護費の停止または廃止の理由となりうる
  • 生活保護を受けていても相続放棄そのものはできる:家庭裁判所への申述による民法上の権利。ただし保護の実施機関との関係で論点が残るため、手続き前にケースワーカーへ相談を
  • 既に受給した保護費は、生活保護法第63条に基づき返還を求められる場合がある(資力があったにもかかわらず受給していた期間分)

生活保護を受給している方が相続人となった場合、相続財産の取扱いは通常の相続とは異なる注意点があります。生活保護法上の届出義務、保護の停止・廃止、過去保護費の返還義務など、慎重な対応が必要です。

この記事では、生活保護受給者が相続を受けた際の法的な取扱いと実務上のアドバイスを、西東京市の相続専門家が解説します。

生活保護受給者の相続:原則と現実

生活保護受給者であっても、民法上の相続権は当然に認められます。生活保護法によって相続資格を失うことはありません。しかし、相続によって取得した財産は「資力」となり、生活保護制度の補足性の原則(生活保護法第4条1項)に抵触するため、保護の停止・廃止につながる可能性があります。

生活保護法の補足性の原則(第4条1項)

生活保護法第4条1項は、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と規定しています。これを「補足性の原則」といいます。

相続によって預貯金・不動産などの資産を取得した場合、それらをまず活用することが求められます。資産が十分であれば、生活保護を継続する理由がなくなるため、保護の廃止が検討されます。

相続発生時の届出義務(生活保護法第61条)

生活保護法第61条は、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない」と定めています。

相続による財産取得は「収入・資産の変動」に該当しますので、必ず福祉事務所(ケースワーカー)に届け出る必要があります。届出を怠ると、後で発覚した場合に保護費返還請求や保護廃止につながります。

生活保護を受けていても相続放棄はできる

相続放棄そのものは民法上の権利です

相続放棄は民法第938条以下に定められた相続人の権利であり、家庭裁判所への申述によって行います。生活保護を受給していることを理由に、家庭裁判所が相続放棄の申述を受理しないという仕組みはありません。「生活保護を受けていると相続放棄できない」という説明を見かけることがありますが、これは正確ではありません。

ただし、相続放棄をすれば生活保護との関係で何も起こらない、というわけでもありません。次のとおり、保護の実施機関との関係では別の論点があります。

注意すべきなのは「保護の実施機関との関係」

生活保護法第4条1項は、利用し得る資産をまず活用することを保護の要件としています(補足性の原則)。そのため、活用できるはずの資産をあえて受け取らない選択をした場合に、実施機関がどう判断するかという問題は残ります。

この点について一律の結論を示すことはできません。相続財産の内容、放棄した理由、世帯の状況によって実施機関の判断が変わりうるためです。相続放棄を検討している場合は、手続きを進める前に必ず担当のケースワーカーに相談してください。生活保護法第61条により、相続の発生自体も届け出る必要があります。

この記事で判例を引用していない理由
この論点について、出典を特定できる確定した最高裁判例を当センターでは確認できていません。裏付けのない判例を根拠として示すことは、かえって読者の不利益になると考え、制度の仕組みからの説明に留めています。個別の裁判例に基づく判断が必要な場合は、弁護士にご相談ください。

債務が多い場合は相続放棄の検討が現実的です

被相続人に借金が多く、相続することでかえって不利益になる場合は、相続放棄を選択する実益があります。相続放棄には自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月という期限があります(民法第915条1項)。期限内に判断が難しい場合は、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てることができます。

いずれの場合も、ケースワーカーへの相談と並行して、財産と債務の全体像を早めに把握することが大切です。

相続による保護の停止・廃止(生活保護法第26条)

停止:将来の保護再開の可能性あり

相続財産が多額ではないが、当面の生活費を賄える程度ある場合は、保護を「停止」する判断がなされることがあります。停止期間中は保護費の支給が止まりますが、財産を消費して再び生活困窮状態になれば、保護の再開が可能です。

廃止:保護打切り

相続財産が十分にあり、長期にわたって生活を維持できると判断される場合は、保護の「廃止」となります。廃止後は、再度生活困窮状態となった場合に新規申請をやり直す必要があります。

過去保護費の返還義務(生活保護法第63条)

生活保護法第63条は、「被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない」と定めています。

例えば、被相続人が生前に死亡保険金の受取人を受給者に指定していたのに本人が知らずに受給を継続していた場合、後で発覚すると、その期間に受けた保護費の返還を求められることがあります。実務上、相続発生時点に遡って計算されるケースが多く見られます。

相続財産が少額・換金困難な場合の取扱い

相続した財産が少額(数十万円程度)や、換金困難な財産(古い不動産、相続人が居住している自宅など)の場合は、必ずしも保護廃止とはなりません。具体的には以下のような対応がなされます。

  • 少額の預貯金:必要最低限の生活費の数ヶ月分を超える部分のみ収入認定
  • 居住用不動産:処分価値が低く、本人が居住している場合は保有が認められることが多い
  • 処分困難な不動産:売却を試みても買い手がつかない場合は保有が黙認されることも

個別の判断はケースワーカーや福祉事務所と協議の上で決定されます。

同居家族の相続と保護の関係

生活保護は「世帯単位」で受給するのが原則です(生活保護法第10条)。同居している家族が相続を受けた場合も、世帯全体の収入・資産として評価され、保護の継続可否が判断されます。同居家族の相続も必ず届け出る必要があります。

実務上のアドバイス

ケースワーカーへの早期相談

相続が発生したら、まず担当のケースワーカーに早期に相談しましょう。届出を怠ると、不正受給と判断される恐れがあります。相続発生から速やかに(一般には数日〜2週間以内が望ましい)報告するのがよいでしょう。

弁護士・司法書士への相談

相続放棄の可否、相続財産の評価、過去保護費の返還義務など、判断が難しい論点が多くあります。弁護士・司法書士など相続の専門家への相談をおすすめします。法テラスの民事法律扶助制度を利用すれば、収入要件を満たす場合に無料法律相談・代理援助を受けることができます。

当センターでの対応事例

事例:新座市Tさんのケース 新座市にお住まいで生活保護を受給されていたTさん(60代)は、ご親族が亡くなり、約500万円の預貯金と築40年の戸建を相続することになりました。当センターでは、相続財産目録を作成し、Tさんとともに福祉事務所に届出を実施。預貯金については生活費として活用しながら段階的に保護廃止となり、戸建は本人が居住しているため保有が認められました。福祉事務所と丁寧に協議を進めることで、トラブルなく手続きを完了しました。

まとめ

生活保護受給者が相続を受けた場合、福祉事務所への届出義務があります。相続放棄そのものは民法上の権利として行えますが、補足性の原則との関係で実施機関の判断が問題となるため、手続きの前にケースワーカーへご相談ください。相続財産の内容によっては、保護の停止・廃止や過去保護費の返還が問題となります。

判断の難しい事例ですので、必ずケースワーカーや専門家と相談の上で対応してください。当センターでは無料相談を実施しておりますので、お気軽にご相談ください。

相続放棄の手続き方法や相続の相談先、相続手続きの流れについても、あわせてご確認ください。当センターのサービス内容やよくあるご質問もぜひご覧ください。

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※免責事項:本記事は2026年5月時点の法令等に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・税務アドバイスを行うものではありません。具体的なご相談は、専門家にお問い合わせください。

監

この記事の監修

株式会社 相続サポートセンター(みらいグループ)

税理士法人みらいを中心に、行政書士・社労士・不動産の専門家が連携。西東京市を拠点に、相続手続き・遺言書作成のワンストップサポートを提供しています。

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