手続き2026年6月16日最終更新: 2026.06.16

この記事の要点

  • 預貯金の払戻し制度は民法第909条の2として2019年7月1日に施行された改正民法の新制度
  • 各相続人は、相続開始時の預貯金額×1/3×法定相続分(上限1金融機関ごと150万円、平成30年法務省令第29号)まで単独で払戻し可能
  • 用途は問わない(葬儀費用・生活費・債務返済等に活用可)。払戻し額は当該相続人が遺産分割で取得したものとみなされる(民法第909条の2第2項)
  • これとは別に、家庭裁判所の保全処分(家事事件手続法第200条3項)でより多額の払戻しを受けることも可能

被相続人が亡くなると、銀行はその名義の口座を凍結し、原則として遺産分割が完了するまで預貯金の引き出しができなくなります。しかし、葬儀費用や当面の生活費の支払いに困るケースが多く、2019年の改正民法で「預貯金の払戻し制度」が新設されました。

この記事では、民法第909条の2に基づく預貯金払戻し制度の仕組み、計算方法、家庭裁判所の保全処分との違いについて、新座市の実例を交えて解説します。

制度創設の背景

従来、預貯金は可分債権として相続開始と同時に各相続人に法定相続分で当然分割されるとされていました(最高裁昭和29年4月8日判決)。しかし、最高裁平成28年12月19日大法廷決定により、預貯金債権は遺産分割の対象となると判例変更され、遺産分割協議が成立するまで相続人単独で引き出すことができなくなりました。

これにより葬儀費用や生活費の支払いに困る相続人が増え、2018年7月に成立した改正民法(平成30年法律第72号)で預貯金の払戻し制度が創設され、2019年7月1日に施行されました。

制度の概要(民法第909条の2)

民法第909条の2は、各共同相続人が、遺産に属する預貯金債権のうち、相続開始時の債権額の3分の1に当該共同相続人の法定相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする)について、単独でその権利を行使することができると定めています。

つまり、遺産分割協議や他の相続人の同意がなくても、一定額までは個々の相続人が金融機関で払戻しを受けることができます。

払戻し限度額の計算

払戻し可能額は次の算式で計算します。

払戻し可能額 = 相続開始時の預貯金額 × 1/3 × 当該相続人の法定相続分

具体例

被相続人の銀行Aの預金が900万円、相続人が配偶者と子2人の場合:

  • 配偶者の法定相続分1/2 → 900万円 × 1/3 × 1/2 = 150万円
  • 子それぞれの法定相続分1/4 → 900万円 × 1/3 × 1/4 = 75万円

このように計算した額の範囲内で、各相続人が単独で払戻しを受けることができます。

1金融機関150万円の上限

計算上の払戻し可能額が大きくなった場合でも、平成30年法務省令第29号により、1つの金融機関につき150万円が上限となります。例えば、預金額が3000万円で相続人が配偶者1人だけの場合、計算上は3000万円 × 1/3 × 1 = 1000万円ですが、実際に払戻しできるのは150万円までです。

ただし、この上限は「1金融機関ごと」であるため、被相続人が複数の金融機関に口座を持っていた場合は、それぞれで150万円ずつ払戻しを受けることが可能です。

払戻しに必要な書類

金融機関によって若干異なりますが、一般的に以下の書類が必要です。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 払戻しを受ける相続人の印鑑証明書
  • 払戻しを受ける相続人の本人確認書類
  • 金融機関所定の払戻し依頼書

法定相続情報一覧図の写しを用意すると戸籍関係書類を簡略化できる金融機関もあります。

払戻し後の効果(取得分とみなす)

民法第909条の2第2項により、払戻しを受けた預貯金は、その払戻しを受けた相続人が遺産分割により取得したものとみなされます。

つまり、後の遺産分割協議で他の相続人と精算が必要になります。例えば、配偶者が150万円を払戻して葬儀費用に使った後、遺産分割では預金の総額からその150万円を控除した残額を分けることになります。

家庭裁判所の保全処分との違い

民法第909条の2による単独払戻し制度とは別に、家事事件手続法第200条3項に基づき、家庭裁判所に「遺産分割審判前の保全処分」を申し立てることで、より多額の預貯金の払戻しを受けることもできます。

保全処分のメリット

  • 150万円の上限がなく、必要額に応じた払戻しが可能
  • 裁判所の判断により、葬儀費用・債務返済・生活費など必要性が認められれば認可される

保全処分のデメリット

  • 遺産分割の調停または審判の申立てが前提となる
  • 「権利行使の必要性」と「他の共同相続人の利益を害しないこと」を裁判所に疎明する必要がある
  • 手続きに時間と費用がかかる

注意点

1. 相続放棄を予定している場合は使えない

払戻しを受けて使用した場合、民法第921条1号の「相続財産の処分」とみなされ、単純承認が成立し相続放棄ができなくなる可能性があります。相続放棄を検討している場合は払戻し制度を使ってはいけません。

2. 残高調査を先行する

払戻し可能額は「相続開始時の預貯金額」を基準とするため、まず金融機関に残高証明書を請求し、相続開始時点の残高を確認する必要があります。

3. 他の相続人とのトラブル防止

払戻しは単独で可能ですが、後日の遺産分割で精算が必要になるため、可能な限り他の相続人と事前に協議し、領収書等の証拠を残すことが推奨されます。

当センターの事例(新座市)

新座市の払戻し制度活用事例 新座市にお住まいのご主人を亡くされた奥様から、葬儀費用と当面の生活費に困っているとご相談いただいたケース。被相続人名義の2つの銀行口座について、民法第909条の2に基づく払戻し制度を活用し、それぞれ150万円ずつ合計300万円を遺産分割協議前に確保しました。同時に、戸籍収集と財産目録の作成を進め、約2ヶ月で遺産分割協議書まで完成させることができました。

まとめ

預貯金の払戻し制度は、遺産分割が成立するまでの間、相続人の当面の生活と葬儀費用を支える重要な制度です。1金融機関150万円の上限はありますが、複数行に分けて活用すれば実質的に多額の払戻しも可能です。ただし、相続放棄を検討している場合は使えないなどの注意点もあります。

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当センターの実績 当センターでは、預貯金の払戻し制度の活用、相続税申告、遺産分割協議書の作成までワンストップでサポートしています。西東京市・東久留米市・清瀬市・新座市の主要金融機関(みずほ銀行・三井住友銀行・三菱UFJ銀行・きらぼし銀行・西武信用金庫・JAなど)への手続き対応経験が豊富です。

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※免責事項:本記事は2026年6月時点の法令等に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・税務アドバイスを行うものではありません。具体的なご相談は、専門家にお問い合わせください。

この記事の監修

株式会社 相続サポートセンター(みらいグループ)

税理士法人みらいを中心に、行政書士・社労士・不動産の専門家が連携。西東京市を拠点に、相続手続き・遺言書作成のワンストップサポートを提供しています。

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