手続き2026年6月28日最終更新: 2026.06.28

この記事の要点

  • 民法第940条は2023年4月1日施行の改正で「管理義務」から「保存義務」に文言・内容ともに変更(令和3年法律第24号)
  • 改正後:①現に占有する財産のみ保存義務、②他の相続人または相続財産清算人に引き渡すまで義務継続、③義務の内容は「自己の財産と同一の注意」をもって保存すること
  • 改正前は「相続放棄しても占有していない財産にも管理責任を負うか」が争われていたが、改正で占有財産のみに限定された
  • 相続人全員放棄の場合は、家庭裁判所に相続財産清算人選任を申立てるまでは保存義務が続く(民法第952条)

「相続放棄をすれば、空き家の管理から完全に解放される」と考えている方は少なくありません。しかし、相続放棄後にも一定の保存義務が残るケースがあります。特に2023年4月1日施行の改正民法では、第940条の規定が大きく変更されました。

この記事では、改正民法第940条の保存義務について、改正のポイント、義務の対象範囲、終了時期、空き家・農地など具体的事例での実務上の取扱いを詳しく解説します。

改正前の民法第940条の問題点

2023年4月1日改正前の民法第940条1項は「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」と定めていました。

この規定には次のような問題がありました。

  • 義務の範囲が不明確:相続放棄した時点で占有していない財産(遠方の不動産など)にも管理義務が及ぶのか、解釈が分かれていた
  • 終了時期が不明確:「相続人となった者が管理を始めることができるまで」とは具体的にいつまでか
  • 相続人全員放棄の場合の責任:次順位相続人もいない場合、誰が管理するのか、放棄者の責任はいつ終わるのか

これらの曖昧さが、空き家の放置や放棄後の責任追及の場面で混乱を招いていました。

2023年改正のポイント

令和3年法律第24号により、民法第940条1項は2023年4月1日から次の規定に改正されました。

「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」

改正の3つの大きなポイント

  1. 占有する財産のみ対象に限定:放棄時に占有していない財産は対象外となった
  2. 義務の終了時期が明確化:相続人または相続財産の清算人への引渡しで終了
  3. 「管理」から「保存」へ:義務の内容が積極的な管理ではなく、現状を維持する保存に限定された

占有する財産のみが対象

改正後は、相続放棄の時点で現に占有していた財産のみが保存義務の対象です。「現に占有する」とは、その財産を事実上支配している状態を指します。例えば次のようなケースが想定されます。

  • 放棄者と被相続人が同居していた家:占有あり→保存義務あり
  • 放棄者が鍵を保管していた被相続人名義の空き家:占有あり→保存義務あり
  • 放棄者が一度も訪れたことのない遠方の被相続人名義の不動産:占有なし→保存義務なし
  • 被相続人が単独で管理していた離れた農地で放棄者が関与していない場合:占有なし→保存義務なし

これにより、相続放棄者が遠方の知らない財産にまで管理責任を問われるリスクは大きく軽減されました。

「自己の財産と同一の注意」の意味

条文の「自己の財産におけるのと同一の注意」とは、自分の財産を扱うときと同じ程度の注意をもって保存すれば良いという意味です。これは民法上「善管注意義務」(善良な管理者の注意義務)よりも軽い義務とされています。

具体的には次のような行為が求められます(積極的な維持改善までは求められません)。

  • 建物の損壊を発見したら相続人や清算人に連絡する
  • 第三者の侵入を許さないよう施錠を維持する
  • 明らかな危険箇所(倒壊しそうな塀など)を放置しない

義務終了の3つのケース

保存義務は次のいずれかが発生した時点で終了します。

1. 次順位の相続人への引渡し

相続放棄により次順位の相続人が相続することになった場合、その相続人に占有していた財産を引き渡せば義務終了です。例えば子が全員放棄して父母が相続人となる場合は、父母への引渡しで終了します。

2. 相続財産清算人への引渡し

相続人全員が放棄した、または相続人が不存在の場合、家庭裁判所が選任する相続財産清算人(旧称:相続財産管理人。2023年4月1日改正で名称変更)に引き渡せば義務終了です。

3. その他の事情による占有喪失

放棄者が引越し等で占有を失った場合、占有がなくなることで保存義務も終了します。ただし、義務を免れる目的で意図的に占有を放棄するなどの行為は信義則上問題となる可能性があります。

相続人全員放棄の場合(相続財産清算人選任)

相続人全員が放棄し次順位の相続人もいない場合、相続財産は「相続財産法人」となり(民法第951条)、家庭裁判所は利害関係人または検察官の請求により相続財産清算人を選任します(民法第952条1項)。

2023年4月1日施行の改正により、従来の「相続財産管理人」は「相続財産清算人」に名称変更され、手続も合理化されました。

清算人選任申立ての費用

清算人選任申立てには、申立手数料(収入印紙800円)、官報公告費用(数千円)に加えて、予納金として数十万円〜100万円程度を裁判所に納付する必要がある場合があります。予納金の額は、清算人の報酬や費用見込みにより事案ごとに決まります。

空き家を相続放棄したケースの実務

空き家が問題となる典型例として、被相続人と同居していなかった子が、被相続人の死亡後に空き家となった実家を放棄するケースがあります。

同居していなかった子の場合

同居していなければ「現に占有」していたとは言えないことが多く、放棄時点で保存義務は原則として発生しません。ただし、葬儀後に空き家の鍵を引き取った、定期的に出入りしていたなどの事情があると占有していたと判断される可能性があります。

同居していた子の場合

同居していた場合は占有が認められ、放棄後も次順位相続人または清算人への引渡しまで保存義務が続きます。空き家対策特別措置法による特定空家等の指定を受ければ、行政から所有者責任を問われる可能性もあるため、早期に次順位相続人へ連絡したり、清算人の選任を検討する必要があります。

改正後も残る課題

2023年改正で大幅に明確化されたとはいえ、いくつかの実務上の課題は残っています。

  • 「現に占有」の認定基準:具体的事案でどの程度の関与があれば占有と認められるか
  • 引渡しまでの期間が長期化するリスク:次順位相続人と連絡がつかない、清算人選任の予納金が用意できないなどの場合
  • 固定資産税の通知:固定資産税の納税通知書は1月1日時点の所有者に届くため、相続放棄しても賦課期日を過ぎていれば請求書が届くことがある
  • 近隣からの損害賠償リスク:明らかな危険を放置すれば、占有者として不法行為責任(民法第709条)を問われる可能性

当センターの実績

新座市での事例 新座市にお住まいのお客様で、被相続人(独居の親)の死亡後に多額の負債が判明し、相続人全員で相続放棄をご検討されたケースをご支援しました。被相続人と同居していたお子様には改正民法第940条の保存義務が残るため、家庭裁判所への相続財産清算人選任申立てを含めた一連の対応をご案内しました。占有財産の明細整理から清算人選任後の引渡しまで、段階的にサポートいたしました。

まとめ

2023年4月1日施行の改正民法第940条により、相続放棄後の責任は「現に占有する財産」のみに限定され、「保存」レベルの注意義務に整理されました。これは相続放棄者にとって大きな前進ですが、占有していた財産を持つ放棄者には、次順位相続人または相続財産清算人への引渡しまで一定の責任が残ります。

特に空き家・農地など管理に手間のかかる財産については、相続放棄の検討段階から、占有の有無、引渡し先、清算人選任の要否を整理しておくことが重要です。

当センターでは、相続放棄の判断から放棄後の保存義務対応、相続財産清算人選任申立てまで、ワンストップでサポートいたします。無料相談をぜひご利用ください。相続放棄の手続き方法当センターのサービス内容もあわせてご確認ください。

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※免責事項:本記事は2026年6月時点の法令等に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・税務アドバイスを行うものではありません。具体的なご相談は、専門家にお問い合わせください。

この記事の監修

株式会社 相続サポートセンター(みらいグループ)

税理士法人みらいを中心に、行政書士・社労士・不動産の専門家が連携。西東京市を拠点に、相続手続き・遺言書作成のワンストップサポートを提供しています。

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