要 この記事の要点
- 賃借人(借主)が死亡した場合、賃借権は相続財産として相続人に承継される(民法第896条)。同居していなくても相続可能
- 敷金返還請求権は2020年4月1日施行の改正民法で民法第622条の2として明文化。明渡し時に未払賃料等を控除した残額が返還される
- 賃貸人(貸主)が死亡した場合、賃貸借契約は相続人に承継され、賃料債権・敷金返還義務も相続人が引き継ぐ
- 内縁配偶者や同居人の居住権保護:判例(最高裁昭和42年2月21日判決)により、相続人不存在の場合は内縁配偶者にも借家権の援用権が認められることがある
賃貸住宅に住んでいた家族が亡くなったとき、または賃貸物件を所有していた家族が亡くなったとき、賃貸借契約や敷金はどう扱われるのでしょうか。「同居していなかった子どもにも賃借権が相続されるのか」「敷金は誰が受け取れるのか」など、実務上の疑問は多くあります。この記事では、賃借人・賃貸人それぞれの死亡時の取扱いを、民法の規定と判例に基づいて解説します。
賃借権の相続性
賃借権は財産権の一種であり、民法第896条「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」の規定により、相続の対象となります。賃借人の死亡で当然に契約終了になるわけではなく、相続人が賃借人としての地位を承継します。
同居していなくても相続可能
賃借権の相続は、同居の有無に関係なく発生します。たとえば一人暮らしの親が借りていた賃貸住宅は、遠方に住む子が相続することになります。相続人は、賃借人として家賃支払義務や原状回復義務も承継します。
賃借人死亡時の対応
相続人による契約の継続または解約
相続人は、相続した賃借権をそのまま継続することも、賃貸人と合意して解約することもできます。継続する場合は新しい契約者として家賃を支払い続け、解約する場合は明渡し義務を負います。
共同相続の場合
相続人が複数いる場合、賃借権は相続人全員の準共有(民法第264条)となります。賃借権は不可分債権として扱われるのが通常で、家賃債務は相続分に応じて分割承継されるのが原則です。実務では、相続人代表者を決めて賃貸人と交渉するのが一般的です。
相続放棄をする場合
賃借権だけを相続放棄することはできません。相続放棄をすると、賃借権を含む被相続人のすべての財産を相続しないことになります(民法第939条)。ただし、相続財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産の清算人に引き渡すまで保存義務を負います(2023年4月施行改正の民法第940条)。
同居人がいる場合の取扱い
賃借人と同居していた家族(配偶者・子など)がいる場合、その同居人が相続人であれば賃借権を承継して住み続けられます。同居人が相続人でない場合(例:内縁の配偶者)でも、相続人の援用や判例による保護を受けて居住を継続できる場合があります(後述)。
敷金返還請求権(民法第622条の2、2020年改正)
敷金とは、賃料債務その他賃貸借契約上の債務を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する金銭です。2020年4月1日施行の改正民法で、敷金に関する規定が民法第622条の2として明文化されました。
敷金返還の時期と方法
民法第622条の2第1項により、賃貸人は、賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたときに、敷金から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還しなければなりません。
つまり、未払賃料・原状回復費用などを差し引いた残額が、賃借人(または相続人)に返還されます。
敷金返還請求権の相続
賃借人が死亡した場合、敷金返還請求権は相続財産として相続人に承継されます。明渡し完了後に敷金の残額が確定し、相続人が法定相続分に応じて取得することになります。遺産分割の対象になる金銭債権ですが、可分債権として扱われる範囲で、原則として法定相続分に応じて各相続人に帰属します。
賃貸人(貸主)死亡時の取扱い
賃貸人が死亡した場合、賃貸物件の所有権だけでなく、賃貸借契約上の地位も相続人に承継されます。相続人は新しい賃貸人として、賃料を受け取り、修繕義務を負い、敷金返還義務も承継します。
賃料債権の準共有
遺産分割が完了する前の賃料債権の取扱いについては、最高裁平成17年9月8日判決が、遺産分割協議が成立するまでの間に生じた賃料債権は遺産とは別個の財産であり、各相続人がその相続分に応じて分割単独債権として取得すると判断しています。
賃料の支払先
賃貸人が死亡した場合、賃借人はどこに賃料を支払えばよいか迷うことがあります。実務では、相続人代表者を決めて支払先を集約するか、遺産分割が完了するまで法務局に賃料を供託(民法第494条)して履行遅滞を回避することもあります。
敷金返還義務の承継
賃貸借契約上の敷金返還義務も相続人に承継されます。賃借人が退去した場合の敷金返還は、相続人が新しい賃貸人として行うことになります。物件売却で賃貸人が変わった場合も、敷金は新賃貸人に承継されるのが原則です(民法第605条の2第4項、2020年4月施行)。
内縁配偶者の保護(判例)
内縁の配偶者は法律上の相続人ではないため、原則として賃借権を相続できません。しかし、判例により一定の保護が認められています。
最高裁昭和42年2月21日判決
賃借人に相続人がいない場合、内縁の配偶者は相続人の借家権を援用して居住を継続できると判断されました(最高裁昭和42年2月21日民集21巻1号155頁)。
相続人がいる場合の保護
相続人がいる場合でも、判例(最高裁昭和42年4月28日判決等)は、内縁配偶者が相続人の借家権を援用して、明渡し請求に対抗できる場合があるとしています。さらに、借地借家法第36条は、相続人なしに死亡した居住用建物賃借人の同居者(内縁配偶者・事実上の養子等)に、賃借人の権利義務承継を認めています。
居住用建物賃貸借の解約
賃借人死亡後、相続人が物件を必要としない場合、賃貸借契約を解約する必要があります。期間の定めのない建物賃貸借は、相続人が解約申入れをすれば3ヶ月を経過することによって終了します(民法第617条1項2号)。
定期借家契約の場合は、原則として中途解約できませんが、契約書に中途解約特約があればそれに従います。
当センターの対応事例
西東京市内のアパートで一人暮らしをされていた方が亡くなり、相続人である長女様から「賃貸借契約の解約と敷金返還、室内の遺品整理を一括してお願いしたい」というご依頼がありました。当センターでは、まず賃貸人へ相続発生の通知を行い、解約日と明渡し日を調整。遺品整理業者との連携、原状回復費用の精算交渉、敷金の返還受領まで対応しました。最終的に敷金から控除される金額を抑えることができ、相続人様の負担を最小限にとどめることができました。
まとめ
賃貸借契約と敷金は、相続発生時に見落とされがちな財産・義務ですが、適切に処理しないと相続人が思わぬ負担を負うことがあります。とくに2020年4月施行の改正民法で敷金に関するルールが明文化されたため、現行の制度を踏まえた対応が重要です。
当センターでは、賃貸借契約の解約手続き、敷金返還の交渉、賃貸人死亡時の相続人への賃貸借管理引継ぎまで対応しております。無料相談をぜひご利用ください。