不動産2026年8月19日最終更新: 2026.08.19

この記事の要点

  • 譲渡所得=譲渡価額 −(取得費+譲渡費用)。相続で取得した不動産は被相続人の取得費・取得時期を引き継ぎます(所得税法第60条第1項)
  • 取得費が分からない場合は概算取得費(譲渡収入の5%)となり、税負担が重くなります
  • 相続税の取得費加算の特例(措置法第39条)は、相続税の申告期限の翌日から3年以内の譲渡が条件です
  • 取得費加算と相続空き家の3,000万円特別控除は選択適用。税率は長期20.315%・短期39.63%です

相続した実家や土地を売却すると、売却益に対して所得税・住民税がかかります。ただし相続不動産の売却には、被相続人の取得費を引き継ぐ仕組みや、相続税を経費的に差し引ける特例など、通常の売却にはないルールがあります。これらを知っているかどうかで、手取り額が数百万円変わることも珍しくありません。

この記事では、相続した不動産を売却したときの譲渡所得の計算方法、使える2つの特例とその選び方、税率、そして申告までの流れを、順を追って解説します。

譲渡所得の計算式

不動産を売却したときの所得(譲渡所得)は、次の式で計算します。

譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除額

この譲渡所得に、所有期間に応じた税率を掛けて税額を計算します。給与所得などとは合算せず、分離して課税されます(分離課税)。

譲渡価額

不動産の売却代金です。固定資産税の精算金を買主から受け取っている場合、その金額も譲渡価額に含めて計算します。

取得費

その不動産を買ったときの購入代金や購入手数料、登記費用などの合計です。建物については、保有期間中の減価償却費相当額を差し引いた後の金額になります(土地は減価償却しません)。

譲渡費用

売却のために直接かかった費用です。主に次のものが該当します。

  • 不動産会社に支払った仲介手数料
  • 売買契約書に貼付した印紙税
  • 建物を取り壊して土地を売る場合の解体費用と建物の未償却残高
  • 境界確定のための測量費
  • 借家人に支払った立退料

一方、売却前の修繕費や、保有期間中に支払った固定資産税は譲渡費用に含まれません。混同しやすい部分です。

被相続人の取得費・取得時期を引き継ぐ

相続不動産の売却で最も重要なルールがこれです。

相続(限定承認に係るものを除く)や贈与によって取得した資産については、所得税法第60条第1項により、被相続人が取得したときの取得費と取得時期をそのまま引き継ぐとされています。「相続したときの時価」が取得費になるわけではありません。

これは有利にも不利にも働きます。

  • 有利な面:所有期間も引き継ぐため、親が何十年も前に購入した不動産であれば、相続した翌日に売却しても長期譲渡所得として低い税率(20.315%)が適用されます
  • 不利な面:取得費も昔の購入価格のままです。地価が上昇した時期に取得した不動産では、譲渡益が大きく計算され、税負担が重くなります

取得費が分からない場合は「概算取得費5%」

実務で最も多い問題が、「親がいつ、いくらで買ったのか分からない」というケースです。売買契約書や領収書が残っていない場合、譲渡収入金額の5%を取得費とみなす概算取得費を用いることが認められています。

ただし、これは非常に不利な取扱いです。3,000万円で売却した場合、取得費はわずか150万円としか認められず、残りの2,850万円(譲渡費用控除前)が譲渡所得として課税対象になってしまいます。

そのため、まずは取得費を裏づける資料を徹底的に探すことをおすすめします。次のようなものが手がかりになります。

  • 売買契約書・重要事項説明書・領収書
  • 購入時のパンフレットや価格表
  • 住宅ローンの金銭消費貸借契約書、償還予定表
  • 通帳の入出金記録
  • 登記事項証明書の乙区(抵当権の債権額から購入価格を推測する材料になる場合があります)

実家の押し入れや金庫、権利証と一緒に保管されていることがよくあります。相続手続きの早い段階で確認しておきましょう。

特例1:相続税の取得費加算の特例(措置法第39条)

相続税を納めた人が相続財産を売却する場合、同じ財産に相続税と所得税が二重にかかる形になります。この負担を調整するのが、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(相続税の取得費加算)です。

どんな特例か

自分が納めた相続税額のうち、売却した不動産に対応する部分を取得費に加算できる制度です。取得費が増えれば譲渡所得は減り、結果として所得税・住民税が軽くなります。

適用要件

  • 相続または遺贈によって財産を取得した人であること
  • その財産を取得した人に相続税が課されていること(相続税額がゼロの場合は使えません)
  • 相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること

相続税の申告期限は「相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」ですから、この特例が使えるのは実質的に相続開始から3年10ヶ月以内ということになります。期限を1日でも過ぎれば適用できません。

加算額の計算

加算できる金額は、次のイメージで計算します。

その人が納めた相続税額 × {売却した不動産の相続税評価額 ÷(その人が相続した財産の相続税課税価格 + 債務控除額)}

相続財産に占める売却した不動産の割合が大きいほど、加算額も大きくなります。適用にあたっては、相続税の申告書の写しなどの添付が必要です。

特例2:相続空き家の3,000万円特別控除(措置法第35条第3項)

被相続人が一人で住んでいた家屋とその敷地を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例です。主な要件は次のとおりです。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
  • 区分所有建物登記がされている建物でないこと(分譲マンションは対象外)
  • 相続開始の直前に被相続人が一人で居住していたこと(要介護認定を受けて老人ホーム等に入所していた場合の特例あり)
  • 相続時から譲渡時まで、事業・貸付・居住の用に供されていないこと
  • 譲渡対価の額が1億円以下であること
  • 相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡であること
  • 耐震基準に適合させて譲渡するか、家屋を取り壊して敷地を譲渡すること(令和6年1月1日以後の譲渡については、譲渡の時から譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修または取壊しを行った場合も対象)

この特例の適用期限は令和9年(2027年)12月31日までの譲渡です。また、令和6年1月1日以後の譲渡で、その家屋・敷地を取得した相続人が3人以上いる場合、控除額は1人あたり2,000万円に縮小されます。適用には市区町村が発行する被相続人居住用家屋等確認書が必要です。

2つの特例は「選択適用」

ここが最も注意すべきポイントです。相続税の取得費加算の特例と、相続空き家の3,000万円特別控除は、同一の資産について併用できません。どちらか有利なほうを選ぶことになります。

選び方の目安

状況 有利になりやすい特例
相続税を納めていない(基礎控除以下) 取得費加算は使えないため、3,000万円特別控除の要件を確認
譲渡益が3,000万円以内に収まる 3,000万円特別控除(税額がゼロになる可能性)
相続税を多額に納めており、譲渡益も大きい 取得費加算のほうが有利になる場合がある
マンション、または昭和56年6月以降の建築 3,000万円特別控除は対象外。取得費加算を検討

いずれも一般的な傾向であり、実際には両方の計算をしたうえで比較するのが確実です。期限も異なり(取得費加算は相続税申告期限の翌日から3年以内、3,000万円特別控除は相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで)、どちらを狙うかで売却スケジュールの組み方も変わります。

税率|長期20.315%・短期39.63%

譲渡所得の税率は、譲渡した年の1月1日時点における所有期間で判定します。

区分 所有期間(譲渡年1月1日時点) 税率(合計)
長期譲渡所得 5年超 20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
短期譲渡所得 5年以下 39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)

前述のとおり、相続不動産は被相続人の取得時期を引き継ぎます。そのため、被相続人が長く保有していた不動産であれば、相続後すぐに売却しても長期譲渡所得として20.315%が適用されるのが通常です。

計算例

具体的な数字で見てみましょう。

前提:父が昭和50年代に購入した実家(木造戸建て)を相続し、4,000万円で売却。取得費を証明する資料がなく概算取得費を使用。仲介手数料等の譲渡費用は140万円。相続空き家の3,000万円特別控除の要件を満たしている。

  • 取得費(概算):4,000万円×5%=200万円
  • 譲渡費用:140万円
  • 特例を使わない場合の譲渡所得:4,000万円−(200万円+140万円)=3,660万円
  • 税額(長期20.315%):3,660万円×20.315%=約743万円

3,000万円特別控除を適用した場合

  • 課税譲渡所得:3,660万円−3,000万円=660万円
  • 税額:660万円×20.315%=約134万円
  • 差額:約609万円の軽減

※復興特別所得税を含む概算であり、実際の税額は他の所得や控除の状況によって異なります。あくまで考え方を示すための試算です。

この例のように、特例が使えるかどうかで手取り額は大きく変わります。逆に言えば、期限を過ぎてから売却すると、本来なら払わずに済んだ税金を負担することになります。

売却前に相続登記が必要

忘れてはならない前提があります。被相続人名義のままでは不動産を売却できません。買主に所有権を移転するには、いったん相続人名義に相続登記をしておく必要があります。

2024年4月1日から相続登記は義務化され(不動産登記法第76条の2)、取得を知った日から3年以内の申請が求められています。売却を考えているなら、なおさら早めに済ませておくべきです。買主が決まってから登記に着手すると、戸籍収集や遺産分割協議に時間がかかり、決済期日に間に合わないという事態も起こり得ます。必要書類は相続登記の必要書類一覧、費用は相続登記の費用をご覧ください。

換価分割の場合の名義

売却して代金を相続人で分ける換価分割の場合、いったん相続人全員の共有名義で登記して売却する方法と、代表者1人の名義で登記して売却し代金を分配する方法があります。後者を選ぶ場合、遺産分割協議書に「換価分割のために代表者名義とする」旨を明記しておかないと、分配した代金が贈与とみなされるおそれがあります。実務上とても重要なポイントです。

また、共有名義で売却した場合は、各相続人がそれぞれの持分に応じて譲渡所得を計算し、相続人ごとに確定申告を行います。3,000万円特別控除も、要件を満たす相続人それぞれが適用を受けられます(令和6年1月1日以後の譲渡で取得者が3人以上の場合は1人2,000万円)。

確定申告の時期と必要書類

不動産を売却した年の翌年2月16日から3月15日までに、住所地を管轄する税務署へ確定申告を行います。西東京市・東久留米市にお住まいの場合は東村山税務署が管轄です。

主な添付書類は次のとおりです。

  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
  • 売買契約書の写し(購入時・売却時の両方)
  • 仲介手数料などの領収書の写し
  • 売却した不動産の登記事項証明書
  • 【3,000万円特別控除の場合】被相続人居住用家屋等確認書、耐震基準適合証明書または家屋の取壊し等が分かる書類
  • 【取得費加算の場合】相続税の申告書の写し、相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書

売却して損失が出た場合や、特例を使わず税額が生じない場合には申告が不要となることもありますが、特例の適用を受けるには申告することが条件です。「税額がゼロになるから申告しなくてよい」という誤解が一番危険ですのでご注意ください。

よくある質問

Q1. 相続した不動産を売ると、所有期間は相続した日から数えるのですか?

いいえ。所得税法第60条第1項により、被相続人の取得費と取得時期をそのまま引き継ぎます。親が長く保有していた不動産であれば、相続直後の売却でも長期譲渡所得(20.315%)となるのが通常です。

Q2. 親がいつ・いくらで買ったのか分かりません。取得費はどうなりますか?

証明できない場合は譲渡収入金額の5%を取得費とする概算取得費を使います。ただし税負担が重くなるため、売買契約書、住宅ローンの償還表、通帳の記録など、取得費を裏づける資料が残っていないかを先に探すことをおすすめします。

Q3. 取得費加算の特例と3,000万円特別控除は両方使えますか?

同一の資産について併用はできず、選択適用です。譲渡益が3,000万円以内なら特別控除が、相続税を多額に納めていて譲渡益も大きい場合は取得費加算が有利になることがあります。両方を試算して比較してください。

Q4. 不動産を売却した場合、確定申告はいつ行いますか?

譲渡した年の翌年2月16日から3月15日までに、住所地の税務署へ申告します。特例を使う場合は譲渡所得の内訳書のほか、被相続人居住用家屋等確認書や相続税の申告書の写しなど、特例ごとの添付書類が必要です。

まとめ

相続した不動産の売却では、譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いた譲渡所得に対して課税されます。取得費は被相続人のものを引き継ぐため、資料が残っていないと概算取得費5%となり税負担が一気に重くなります。まずは購入時の資料を探すことが第一歩です。

そのうえで、相続税を納めているなら取得費加算の特例(申告期限の翌日から3年以内)、被相続人が一人で住んでいた旧耐震の戸建てなら相続空き家の3,000万円特別控除(相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで)を検討します。両者は選択適用で、期限も異なるため、売却のスケジュールを立てる段階から逆算しておくことが大切です。

そして売却の前提として相続登記が必要になります。「売ることを決めてから動く」のではなく、「売る可能性があるうちから準備する」ことが、結果的に手取りを最大化します。

相続した不動産の売却で、どの特例が使えるか分からないままではありませんか?

取得費加算と3,000万円特別控除のどちらが有利かの試算、売却前の相続登記、譲渡所得の確定申告まで、税理士・司法書士が連携して一貫してサポートします。

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※免責事項:本記事は2026年8月時点の法令等に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・税務アドバイスを行うものではありません。制度の内容や適用期限は変更される場合があります。記載の税額・費用はいずれも目安の試算です。具体的なご相談は、専門家にお問い合わせください。

この記事の監修

株式会社 相続サポートセンター(みらいグループ)

税理士法人みらいを中心に、行政書士・社労士・不動産の専門家が連携。西東京市を拠点に、相続手続き・遺言書作成のワンストップサポートを提供しています。

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