不動産2026年8月17日最終更新: 2026.08.17

この記事の要点

  • 選択肢は住む・貸す・売る・手放すの4つ。「持ち続けるだけで費用が出ていく」ことを前提に比較します
  • 売却するなら相続空き家の3,000万円特別控除(措置法第35条第3項)を検討。相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までが譲渡の期限です
  • 手放す選択肢として相続土地国庫帰属制度がありますが、建物があると利用できず解体が前提です
  • 兄弟で意見が割れたら、まず査定額・維持費・想定家賃という数字を共有することが解決の第一歩です

「実家を相続したけれど、誰も住む予定がない」。相続のご相談で最も多いお悩みのひとつです。判断を先送りしているうちに固定資産税を払い続け、庭は荒れ、建物の傷みも進む。そして数年後、売ろうとしたときには使えたはずの税制上の特例が期限切れになっていた——こうしたケースは決して珍しくありません。

実家をどうするかに絶対的な正解はありませんが、判断の順番と、それぞれの選択肢のコストは整理できます。この記事では、住む・貸す・売る・手放すの4つの選択肢を、費用・税金・手間の観点から比較し、判断の道筋を示します。

まず押さえたい「持ち続けるコスト」

判断を始める前に、何もしなくても発生する費用を把握しておきましょう。空き家を保有し続けると、おおむね次の負担が毎年続きます。

  • 固定資産税・都市計画税:住宅が建っていれば住宅用地の特例で軽減されていますが、それでも毎年発生します
  • 火災保険料:空き家は住宅物件として扱われず、保険料が上がる、あるいは加入を断られる場合があります
  • 水道・電気の基本料金:換気や清掃のために契約を残すことが多くあります
  • 管理・巡回の手間または費用:庭木の剪定、通風、郵便物の確認。遠方なら管理会社への委託費が発生します
  • 建物価値の下落:人が住まない家は傷みが早く、放置期間が長いほど売却価格は下がります

さらに、空家等対策の推進に関する特別措置法に基づき「特定空家等」または「管理不全空家等」に指定され、市区町村から勧告を受けると、住宅用地の特例が外れて固定資産税の負担が大きく増えるおそれがあります。空き家のリスクは空き家を相続したらどうする?で詳しく解説しています。

判断のフローチャート

次の順番で問いに答えていくと、選択肢を絞りやすくなります。

Q1. 相続人またはその家族の誰かが、そこに住む予定はありますか?

はい:「住む」を軸に検討。リフォーム費用と他の相続人への代償金を試算します。
いいえ:Q2へ。

Q2. 建物は貸せる状態ですか?(築年数・耐震性・設備)

比較的良好:「貸す」も選択肢。想定家賃とリフォーム費用の回収年数を計算します。
老朽化している:Q3へ。

Q3. 立地に一定の需要はありますか?(駅距離・生活利便性)

ある:「売る」が有力。相続空き家の3,000万円特別控除の要件を確認します。
乏しい:Q4へ。

Q4. 買い手がつかず、維持費だけが続く見込みですか?

はい:「手放す」を検討。建物を解体して相続土地国庫帰属制度を申請できるか確認します。

4つの選択肢を比較する

選択肢 主な費用 税金のポイント 手間
住む リフォーム費用、他の相続人への代償金、固定資産税 同居等の要件を満たせば小規模宅地等の特例で330㎡まで80%減額 中(転居・改修)
貸す リフォーム費用、管理委託料、原状回復費、固定資産税 家賃は不動産所得として毎年確定申告。貸すと相続空き家の3,000万円控除は使えなくなる 大(入居者対応が継続)
売る 仲介手数料、相続登記費用、解体費(更地渡しの場合)、測量費 譲渡所得税・住民税。3,000万円特別控除や取得費加算の特例を検討 中(一度で完結)
手放す 建物解体費、審査手数料14,000円/筆、負担金(原則20万円から) 売却代金は得られないが、以後の固定資産税・管理費が不要になる 中〜大(要件審査あり)

※費用はいずれも目安であり、物件の状態や地域、依頼先によって大きく変わります。

選択肢1:住む

相続人やその家族が実際に住むのであれば、活用としては最もシンプルです。ただし検討すべき点が2つあります。

リフォーム費用の見積り

築年数の経った住宅では、水回りの更新、断熱・耐震の改修などが必要になることがあります。特に1981年(昭和56年)5月31日以前の建築確認による建物は旧耐震基準であり、耐震診断・改修の検討が推奨されます。工事の規模によって費用は大きく変わるため、複数社から見積りを取りましょう。

他の相続人との公平性

相続人が複数いる場合、1人が実家を取得すると他の相続人の取り分が減ります。差額を金銭で調整するのが代償分割です。代償金の額を決めるには不動産の時価評価が必要になるため、複数の不動産会社の査定を取ることをおすすめします。

なお、被相続人と同居していた相続人が取得し、申告期限まで居住・保有を継続するなど一定の要件を満たせば、小規模宅地等の特例により土地の相続税評価額を330㎡まで80%減額できる可能性があります。相続税の負担を考えるうえで大きな要素です。

選択肢2:貸す

思い出のある家を手放したくない、将来は自分か子どもが使うかもしれない。そうした場合は賃貸に出して収益化する選択肢があります。

リフォーム費用の回収年数で判断する

判断の軸は単純です。「リフォーム費用 ÷(想定家賃 − 管理費・固定資産税等の年間支出)= 回収年数」を計算し、その年数の間、貸し続けられるかを考えます。

たとえばリフォームに300万円かかり、月8万円で貸せて、年間の管理費・税負担が20万円だとします。年間の手残りは96万円−20万円=76万円ですから、回収には約4年かかる計算です。ここに空室期間や退去時の原状回復費、将来の修繕費が加わります。築古の戸建てほど想定家賃が伸びにくいため、費用が大きくなるほど採算は厳しくなります。

貸すと使えなくなる特例がある

見落とされがちですが重要な点です。相続空き家の3,000万円特別控除は、相続時から譲渡時まで事業・貸付・居住の用に供されていないことが要件です。つまり、一度でも賃貸に出すとこの特例は使えなくなります。「とりあえず数年貸してから売ろう」という判断が、結果として数百万円単位の税負担の差になることがあるため、貸す前に必ず確認してください。

賃貸人としての責任

貸主になると、修繕義務、入居者トラブルへの対応、退去時の敷金精算といった継続的な責任が生じます。相続人が高齢の場合や遠方に住んでいる場合は、管理会社への委託も含めて現実的に運営できるかを検討しましょう。

選択肢3:売る

相続人の誰も住まず、賃貸の採算も見込みにくい場合、売却して現金化し相続人間で分ける換価分割が最も現実的です。現金は正確に分けられるため、公平性の面でも優れています。

売却の前に相続登記が必要

被相続人名義のままでは売却できません。必ず相続登記を済ませて売主の名義にします。買主が決まってから登記に着手すると決済に間に合わないこともあるため、売却方針が固まったら早めに進めましょう。手続きは相続登記の必要書類一覧をご覧ください。

相続空き家の3,000万円特別控除

被相続人が住んでいた家屋とその敷地を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できるのが、租税特別措置法第35条第3項の特例です。主な要件は次のとおりです。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(旧耐震基準の建物)
  • 区分所有建物登記がされている建物でないこと(分譲マンションは対象外)
  • 相続開始の直前に被相続人が一人で居住していたこと(要介護認定を受けて老人ホーム等に入所していた場合の特例あり)
  • 相続時から譲渡時まで、事業・貸付・居住の用に供されていないこと
  • 譲渡対価の額が1億円以下であること
  • 相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること
  • 売却時に、家屋が一定の耐震基準に適合しているか、家屋を取り壊して敷地を譲渡すること(令和6年1月1日以後の譲渡については、譲渡の時から譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修または取壊しを行った場合も対象)

この特例の適用期限は、令和9年(2027年)12月31日までの譲渡とされています。また、令和6年1月1日以後の譲渡で、その家屋・敷地を取得した相続人が3人以上いる場合は、控除額が1人あたり2,000万円に縮小される点にも注意が必要です。

要件が細かいため、「使えると思っていたら要件を満たしていなかった」という行き違いが起きやすい特例です。売却前に必ず確認してください。譲渡所得の計算方法や他の特例との関係は相続した不動産を売却したときの税金で解説しています。

選択肢4:手放す

売却しようにも買い手がつかず、維持費だけが出ていく。そうした土地について、国に引き取ってもらう制度が相続土地国庫帰属制度です(2023年4月27日施行)。

建物があると利用できない

最大のハードルがこれです。制度の対象は土地のみで、建物が建っている土地は申請できません。実家を手放したい場合、まず建物を解体して更地にする必要があり、その解体費用(木造戸建てで100万円以上かかることも珍しくありません)は相続人の負担です。

その他の要件と費用

このほか、担保権や使用収益権が設定されている土地、境界が明らかでない土地や所有権の存否・範囲に争いがある土地、通路など他人の利用が予定されている土地、土壌汚染がある土地、崖地で管理に過分の費用がかかる土地なども対象外とされています。

費用面では、申請時の審査手数料が土地一筆あたり14,000円、承認された場合の負担金が原則20万円(宅地・農地・森林など土地の種目や面積によって算定方法が異なり、金額が変わる場合があります)かかります。

「タダで引き取ってもらえる制度」ではなく、解体費と負担金を払って手放す制度である点を理解しておきましょう。それでも、管理し続ける負担や将来世代への先送りを避けられるという価値はあります。詳しくは相続土地国庫帰属制度をご覧ください。

兄弟で意見が割れる場合の進め方

実家の扱いは、感情が絡むため合意が難しいテーマです。「思い出があるから残したい兄」と「維持費を負担したくない弟」のように、立場が正面から対立することもあります。次の順番で進めると、話が前に進みやすくなります。

ステップ1:数字を共有する

意見の対立は、情報格差から生じていることが少なくありません。まずは全員が同じ情報を持つことです。不動産会社2〜3社の査定額、固定資産税の年額、想定家賃、必要なリフォーム費用、解体費用の見積り。これらを一覧にして共有するだけで、「残す」という選択のコストが具体的に見え、議論が現実的になります。

ステップ2:分け方の選択肢を並べる

不動産の分割方法には次の4つがあります。

  • 現物分割:土地を分筆して分ける。面積や接道条件によっては困難です
  • 代償分割:1人が取得し、他の相続人に金銭を支払う。取得者に資力が必要です
  • 換価分割:売却して代金を分ける。最も公平ですが、家は残りません
  • 共有分割:持分を共有する。当面の対立は避けられますが、将来の売却・修繕に全員の同意が必要となり、次の相続で権利者がさらに増えます

実務上、共有は「先送り」であって解決ではないと考えたほうが安全です。共有のリスクは共有不動産の相続で詳しく解説しています。

ステップ3:第三者を入れる

当事者だけで話すと、過去の経緯や感情が持ち出されて堂々巡りになりがちです。専門家が同席し、税金や費用を含めた選択肢を客観的に整理するだけで、話し合いが進むケースは多くあります。それでもまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を利用することになります。進め方は遺産分割協議がまとまらない場合をご覧ください。

判断のタイムリミットを意識する

実家の扱いに法律上の期限はありませんが、関連する期限は次のように並んでいます。

  • 3ヶ月:相続放棄・限定承認の期限(相続の開始を知った時から)
  • 4ヶ月:準確定申告の期限
  • 10ヶ月:相続税の申告・納付期限。小規模宅地等の特例もこの申告で適用します
  • 3年:相続登記の申請義務の期限(取得を知った日から)
  • 3年10ヶ月:相続税の取得費加算の特例が使える期限(相続税の申告期限の翌日から3年以内の譲渡)
  • 3年を経過する日の属する年の12月31日:相続空き家の3,000万円特別控除が使える譲渡期限

つまり、実質的には相続開始からおよそ3年が、税制上の選択肢を残したまま判断できる期間ということになります。この期間を過ぎてから売却すると、使えたはずの控除が使えず、手取り額が大きく変わることがあります。

よくある質問

Q1. 相続した実家をどうするか、判断の期限はありますか?

活用方法自体に期限はありませんが、相続放棄は3ヶ月、相続税申告は10ヶ月、相続登記は3年以内という期限があります。さらに相続空き家の3,000万円特別控除を使うには、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡が必要です。実質的にはこの3年が判断のタイムリミットです。

Q2. 相続した空き家を売ると3,000万円の特別控除が使えると聞きました。誰でも使えますか?

いいえ。昭和56年5月31日以前の建築であること、区分所有建物でないこと、相続開始直前に被相続人が一人で居住していたこと、相続時から譲渡時まで貸付等をしていないこと、譲渡対価1億円以下であることなど、細かな要件があります。適用期限は令和9年12月31日までの譲渡です。

Q3. 誰も住まない実家を国に引き取ってもらうことはできますか?

相続土地国庫帰属制度がありますが、対象は土地のみで、建物があると申請できません。解体が前提となり、審査手数料(一筆14,000円)と負担金(原則20万円から)もかかります。境界が不明な土地や担保権が設定された土地なども対象外です。

Q4. 兄弟で実家をどうするか意見が割れています。どう進めればよいですか?

まず査定額・固定資産税・維持費・想定家賃といった数字を全員で共有してください。そのうえで代償分割・換価分割などの選択肢を比較します。共有名義のまま放置すると将来さらに解決が難しくなります。まとまらない場合は家庭裁判所の遺産分割調停を利用します。

まとめ

相続した実家の扱いは、住む・貸す・売る・手放すの4択です。判断を先送りするほど、建物は傷み、税制上の選択肢は減り、次の相続で相続人が増えて話し合いはさらに難しくなります。まずは「持ち続けるといくらかかるのか」を数字にして、家族で共有することから始めてください。

特に、売却を少しでも視野に入れているなら、相続空き家の3,000万円特別控除の要件と期限は最初に確認すべきポイントです。一度賃貸に出すと使えなくなる、マンションは対象外といった落とし穴もあります。判断に迷ったら、相続税・登記・売却をまとめて相談できる窓口にご相談ください。

相続した実家を売るか貸すか、判断がつかないまま時間だけが過ぎていませんか?

使える税制上の特例には期限があります。相続登記から売却・活用のシミュレーション、兄弟間の分け方のご提案まで、税理士・行政書士・司法書士が連携して整理します。

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※免責事項:本記事は2026年8月時点の法令等に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・税務アドバイスを行うものではありません。制度の内容や適用期限は変更される場合があります。記載の費用・金額はいずれも目安です。具体的なご相談は、専門家にお問い合わせください。

この記事の監修

株式会社 相続サポートセンター(みらいグループ)

税理士法人みらいを中心に、行政書士・社労士・不動産の専門家が連携。西東京市を拠点に、相続手続き・遺言書作成のワンストップサポートを提供しています。

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