要 この記事の要点
- 生活保護法第63条は「資力があるにもかかわらず保護を受けたとき」に費用の返還を求める規定で、条文上、返還額は保護の実施機関が定めるとされています
- そのため、返還額を一律の計算式で示すことはできません。この記事も考え方の整理にとどめており、実際の金額は必ず福祉事務所・ケースワーカーにご確認ください
- 申告せずにいた場合は、第63条ではなく第78条(不正受給)として扱われ、加算のうえ徴収されることがあります。両者はまったく別の扱いです
- 相続が起きたら、遺産を受け取る前の段階で速やかに福祉事務所へ届け出る(生活保護法第61条)ことが、結果として負担を小さくします
生活保護を受給している方が親族の遺産を相続することになったとき、多くの方が最初に心配されるのが「これまで受け取った保護費を返さなければならないのか、いくら返すのか」という点です。西東京市・東久留米市の当センターにも、実際にこうしたご相談が寄せられます。
結論から申し上げると、返還額を事前に一律の計算で示すことはできません。生活保護法第63条は返還額を「保護の実施機関の定める額」としており、個々の事情を踏まえた判断に委ねられているためです。この記事では、金額を断定するのではなく、どういう考え方で判断されるのかという枠組みを整理します。実際の取扱いについては、必ずお住まいの市の福祉事務所・担当ケースワーカーにご確認ください。
生活保護法第63条とは
生活保護法第63条は、次のように定めています。
被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、 保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は 市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する 金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しな ければならない。
この条文から読み取れるポイントは3つあります。
| 条文の言葉 | 意味するところ |
|---|---|
| 資力があるにもかかわらず | 対象になるのは「資力が発生していた期間」に受けた保護費です。相続では、被相続人が亡くなった時点で相続分に相当する資力が生じていたと評価されることがあります |
| 受けた保護金品に相当する金額の範囲内において | その期間に実際に受けた保護費の額が上限です。それを超えて請求されることはありません |
| 保護の実施機関の定める額 | 上限額をそのまま返すとは限らず、実施機関が個別に額を決めるという趣旨です。ここが判断の分かれ目になります |
「いくら返すのか」が一律に決まらない理由
インターネット上には「相続開始日から遺産受領日までの保護費の全額が返還対象」という説明も見られますが、これは上限の考え方であって、確定額ではありません。条文が「実施機関の定める額」としている以上、次のような事情が個別に考慮されうるためです。
- 相続した財産の種類と金額(預貯金か、換金が難しい不動産か)
- 実際にいつ、いくらを手にできたのか(遺産分割が長引いた場合など)
- 本人が資力の発生を知りうる状況にあったかどうか
- その方の自立更生に充てられる費用があるかどうか
とくに最後の点については、厚生労働省の通知に基づき、自立更生のために用いられる費用を返還額から差し引く運用があるとされています。ただし、何が自立更生に該当するか、どこまで認められるかは実施機関の判断であり、あらかじめ「これは控除されます」と申し上げることはできません。控除を希望する場合は、使途や見積りを示して事前に相談されることをおすすめします。
第63条と第78条はまったく違う
返還を考えるうえで、もっとも重要なのが第63条と第78条の区別です。相続を届け出たかどうかで、扱いが大きく変わります。
| 項目 | 第63条(費用返還義務) | 第78条(費用徴収) |
|---|---|---|
| どんな場合 | 資力はあったが、不正の意図なく保護を受けていた場合 | 不実の申請その他不正な手段により保護を受けた場合 |
| 返す額 | 受けた保護費の範囲内で実施機関が定める額 | 受けた保護費の全部または一部に加え、その額に100分の40を乗じた額以下の金額を加算されることがあります |
| 位置づけ | 調整のための返還 | 不正受給に対する徴収 |
相続したことを隠したまま保護を受け続け、後から発覚した場合には、第78条の適用が検討されることになります。届け出るかどうかで、負担も評価もまったく変わるということです。悪意がなくても、結果として申告が遅れれば不利に働きかねません。
まず必要なのは「届け出ること」(生活保護法第61条)
生活保護法第61条は、収入・支出その他生計の状況に変動があったとき、または居住地や世帯の構成に異動があったときは、速やかに保護の実施機関または福祉事務所長に届け出なければならないと定めています。
相続による財産の取得は、この「生計の状況の変動」にあたります。届出のタイミングとして望ましいのは、遺産を実際に受け取った後ではなく、相続が発生したことを知った段階です。遺産分割がまとまっていなくても、状況を報告しておくことで、その後の手続きの見通しを一緒に立てられます。
届け出るときに手元にあると話が早い書類の例を挙げます(実際に何が必要かは福祉事務所によって異なりますので、事前にご確認ください)。
- 被相続人の死亡が分かる戸籍(除籍謄本)
- 相続人が誰かが分かる戸籍一式、または法定相続情報一覧図
- どのような財産があるかの一覧(財産調査の結果をまとめたもの)
- 遺言書がある場合はその写し、遺産分割協議書ができていればその写し
財産の内容がはっきりしないまま相談すると、話が前に進みにくくなります。当センターでも、まず財産目録を整えたうえで福祉事務所にご説明いただくことをおすすめしています。
保護の「停止」と「廃止」の違い
相続財産があると、保護そのものの取扱いも変わりえます。生活保護法第26条に基づき、停止または廃止の判断がなされることがあります。
| 停止 | 廃止 | |
|---|---|---|
| 意味 | 保護を一時的に止める | 保護を終了する |
| 想定される場面 | 比較的短期間で資力を使い切ると見込まれる場合 | 長期にわたり生活を維持できると見込まれる場合 |
| その後 | 要件を満たせば再開の手続き | 改めて新規の申請が必要 |
どちらになるかは、財産の額だけでなく、換金できるかどうかや世帯の状況を踏まえて判断されます。居住している自宅を相続した場合など、処分価値との関係で保有が認められることもあります。この点も一律ではありませんので、担当ケースワーカーとよくご相談ください。生活保護と相続の全体像は生活保護受給者が相続を受けた場合の取扱いにまとめています。
返還金の納め方と、納得できないとき
納付の方法
返還すべき額が決まったら、実施機関の指示に従って納付します。一括での納付が難しい場合に分割の相談ができるかどうかも、実施機関の運用によります。なお、本人の申出があるときは、支給される保護金品から徴収する方法をとれる場合があります(生活保護法第78条の2)。手元の現金が乏しい状況では、この方法が使えるか相談してみる価値があります。
処分に納得できない場合
返還決定や保護の廃止といった処分に納得できない場合には、都道府県知事に対して審査請求をすることができます(生活保護法第64条)。審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から3か月以内に行う必要があります(行政不服審査法第18条第1項)。期間の制限がありますので、疑問があれば早めに動くことが大切です。
費用の面で専門家への相談をためらわれる場合は、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助制度をご検討ください。資力の要件を満たす方は、無料の法律相談や弁護士費用の立替えを利用できる場合があります。
まとめ
生活保護法第63条による返還は、「資力があった期間に受けた保護費の範囲内で、実施機関が定める額」を返すという仕組みです。上限は決まっていても、実際にいくらになるかは個別の判断であり、この記事を含め、外部から金額を断定することはできません。
できることは、相続の発生を知った段階で速やかに届け出て(生活保護法第61条)、財産の内容を整理したうえで、担当ケースワーカーと具体的に相談することです。届出を怠って第78条の不正受給と扱われる事態を避けることが、結果としてご本人を守ります。
西東京市・東久留米市・清瀬市・新座市で、相続財産の調査や財産目録の作成にお困りでしたら、当センターがお手伝いします。ただし、返還額や保護の継続についての最終的な判断は、必ず福祉事務所・ケースワーカーにご確認ください。
▶ 福祉事務所に説明する前に、相続財産の全体像を整理しておきませんか?
戸籍収集・相続人の確定・財産目録の作成まで、専門家がお手伝いします。返還額や保護の継続の可否については、担当のケースワーカー・福祉事務所へのご確認をお願いしております。
西東京市ひばりが丘の相続サポートセンターなら、戸籍収集から遺産分割・不動産名義変更・相続税申告まで、税理士・行政書士・司法書士が連携してワンストップで対応します。初回相談は無料です。まずはお気軽にご相談ください。
よくある質問
Q. 相続した遺産から、いくら返還することになりますか?
金額を一律にお示しすることはできません。生活保護法第63条は「受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額」と規定しており、返還額は個別の事情を踏まえて実施機関が決めるためです。必ずお住まいの市の福祉事務所・担当ケースワーカーにご確認ください。
Q. 相続したことを申告しないとどうなりますか?
生活保護法第61条の届出義務に反することになります。後から発覚した場合、第63条の返還ではなく第78条の費用徴収として扱われ、受けた保護費に加えてその額に100分の40を乗じた額以下の金額を加算されることがあります。悪意がなくても不利に働きかねませんので、速やかな届出をおすすめします。
Q. 遺産分割がまとまっておらず、まだ何も受け取っていません。それでも届け出る必要がありますか?
実際に受け取る前でも、相続が発生した事実は生計の状況に関わる情報です。分割の見通しが立っていない段階でも、まず状況を報告しておくことをおすすめします。届出の要否やタイミングについては、担当ケースワーカーにご確認ください。
Q. 相続したのが古い家だけで、売れそうにありません。それでも返還の対象ですか?
換金が難しい不動産の取扱いは、預貯金とは異なる判断がなされることがあります。居住している自宅であれば保有が認められる場合もあります。ただし、これも実施機関の判断によりますので、不動産の評価資料などを添えて福祉事務所にご相談ください。