要 この記事の要点
- 「代表相続人」は民法に定めのある言葉ではなく、金融機関などが手続きの窓口・受取人として置く役割です。権限は、ほかの相続人の同意や委任から生まれます
- 決め方に法律上の決まりはなく、相続人全員の話し合いで決めます。長男である必要も、遺産を多く受け取る人である必要もありません
- 代表相続人を立てても、金融機関の請求書や遺産分割協議書には相続人全員の署名と実印が求められるのが通常です
- 税金の「相続人の代表者」(国税通則法第13条・地方税法第9条の2)は、税務署や市区町村からの書類を受け取る代表者の届出で、金融機関の代表相続人とは別のものです
銀行やゆうちょ銀行で相続の手続きをしようとすると、「代表相続人の方のお名前とご連絡先を」と聞かれます。相続人が何人もいるのに一人を選ぶ必要があるのか、選ばれた人は何の責任を負うのか、遺産を多くもらえるのか――初めての方には分かりにくい言葉です。
この記事では、代表相続人がどのような役割なのかを、ゆうちょ銀行の所定用紙の文言や関係する法律の条文をもとに整理し、決め方と書類への書き方を解説します。
代表相続人とはどんな役割?
代表相続人とは、金融機関などの相続手続きで、相続人を代表して窓口とのやり取りを行い、預貯金の払戻しを受けたり名義を引き受けたりする相続人のことです。法律上の地位ではなく、手続き上の役割です。
民法には「代表相続人」という言葉は出てきません。それでも多くの金融機関がこの言葉を使うのは、相続人全員が毎回窓口に来るのは現実的でなく、連絡先と受取先を一人にまとめる必要があるからです。
たとえばゆうちょ銀行の「相続確認表」の記入要領では、代表相続人を「貯金等の相続手続を行っていただく方」と説明し、相続の対象となる貯金は、代表相続人が払戻しを受けるか、通帳等の名義を代表相続人の名義に書き換える扱いになるとしています。つまり代表相続人は、次の二つを担う人です。
- 連絡窓口:金融機関からの問い合わせを受け、書類のやり取りをする
- 受取人・名義人:払い戻されたお金を受け取る、または名義を書き換えた先の名義人になる
ここで大事なのは、代表相続人になったからといって遺産を多く受け取る権利が生まれるわけではないことです。誰が何を取得するかは、遺言か、相続人全員による遺産分割協議で決まります。
代表相続人の権限はどこから来る?
代表相続人の権限は、ほかの相続人全員の同意や委任から生まれます。そのため金融機関の請求書には、代表相続人だけでなく相続人全員の署名と実印が求められるのが通常です。
ゆうちょ銀行の「貯金等相続手続請求書(名義書換請求書兼支払請求書)」には、相続人全員が「同貯金等を指定した代表相続人に名義書換えすることに同意」する旨の文面があり、代表相続人以外の相続人も実印を押す欄があります。投資信託の請求書には、代表相続人以外の相続人が請求に関する一切の権限を代表相続人に委任する旨の文面が入っています。
このように、代表相続人は一人で決めたり動かしたりできる立場ではなく、全員の同意を得て手続きを代わりに進める立場です。遺言で遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が手続きを行う形になり、ゆうちょ銀行の様式にも遺言執行者の欄が別に設けられています。請求書の具体的な記入方法は貯金等相続手続請求書の書き方をご覧ください。
税金の「相続人代表者」とはどう違う?
税金の手続きにも「相続人の代表者」がありますが、こちらは税務署や市区町村からの書類を受け取る人を届け出る制度で、預貯金を受け取る金融機関の代表相続人とは別のものです。
法律に「代表者」が出てくるのは税金の分野です。国税通則法第13条は、相続人が二人以上いるときに、亡くなった方の国税に関する書類を受け取る代表者を相続人の中から指定し、税務署長に届け出ることができると定めています。準確定申告で使う「死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表」が「兼相続人の代表者指定届出書」となっているのはこのためです。
地方税でも、地方税法第9条の2が同じように、亡くなった方の地方税の賦課徴収や還付に関する書類を受け取る代表者の指定と届出を定めています。固定資産税で市区町村など(東京23区では都税事務所)に出す「相続人代表者指定届」は、この規定に基づく届出です。
| 呼び方 | 根拠 | 役割 |
|---|---|---|
| 金融機関の代表相続人 | 各金融機関の手続き(相続人全員の同意・委任) | 窓口とのやり取り、払戻金の受取り、名義の引受け |
| 国税の相続人の代表者 | 国税通則法第13条 | 亡くなった方の国税に関する書類の受領(準確定申告の付表で指定) |
| 地方税の相続人代表者 | 地方税法第9条の2 | 固定資産税などの納税通知書・還付の書類の受領 |
三つとも同じ人にすることもできますが、それぞれ別の手続きで、一つを届け出ても他には反映されません。なお、相続登記にも「代表相続人」という制度はありません。法務局の案内では、法定相続分どおりに登記する場合は相続人のうち一人が全員分を申請できるとされていますが、これは登記の申請方法の話です。準確定申告の全体像は準確定申告とはをご覧ください。
代表相続人はどう決める?
代表相続人の決め方に法律上の決まりはなく、相続人全員の話し合いで決めます。平日に金融機関と連絡が取れ、書類を管理でき、ほかの相続人と連絡が取れる人が向いています。
長男や配偶者がなるもの、と思われがちですが、そうした決まりはありません。実務の負担を考えると、次のような条件を満たす人が向いています。
- 平日の日中に金融機関からの電話を受けたり、窓口に行ったりできる
- 戸籍・印鑑証明書・通帳などの書類を紛失せずに管理できる
- ほかの相続人全員と連絡が取れ、署名や実印をお願いできる関係にある
- 受取りに使う口座を持っている(ゆうちょ銀行の通常貯金口座で受け取る場合など)
相続人の中に未成年の方や、認知症などで判断能力に不安のある方がいる場合は、代表相続人を決める以前に、その方の代わりに誰が署名するのかという問題があります。この点は相続人に高齢の方がいる場合で整理しています。また、長く連絡を取っていない相続人がいる場合は、疎遠な相続人がいる相続もあわせてご覧ください。
金融機関の書類と遺産分割協議書にはどう書く?
金融機関の所定用紙では、代表相続人欄に住所・氏名・連絡先を書いて実印を押し、ほかの相続人も各自の欄に署名・押印します。遺産分割協議書には、代表相続人が誰かよりも、各財産を誰が取得し、代表相続人が受け取った後どう分けるかを明確に書くことが大切です。
まず金融機関の所定用紙です。ゆうちょ銀行の場合、最初に出す相続確認表に「代表相続人」欄があり、住所・氏名・電話番号と、内容確認の電話を受けやすい時間帯を書きます。最後の請求書では、代表相続人(請求人)欄に住所・氏名・生年月日を書いて実印を押し、代表相続人以外の相続人はそれぞれ自分で署名して実印を押します。
次に遺産分割協議書です。遺産分割協議書は、誰がどの財産を取得するかを決める書類です。代表相続人が預貯金をいったん受け取る場合、協議書に書く内容によって、そのお金が誰のものかの説明が変わります。代表的な書き方の違いを整理すると次のとおりです。
| 協議書の内容 | 代表相続人が受け取ったお金の位置づけ |
|---|---|
| 代表相続人がその預貯金を取得する | 代表相続人自身の取得分。ほかの相続人に渡すと、協議書とは別のお金の移動になります |
| 代表相続人が払戻しを受け、各相続人に決めた割合で分配する | 各相続人の取得分を代表相続人が預かっている状態。分配の割合と方法を書いておきます |
| 各相続人がそれぞれの預貯金を取得する | 金融機関ごとに取得する人が異なる場合。取得する人がその金融機関の代表相続人になると整理しやすくなります |
二つ目の形であれば、協議書には「次の預貯金は、相続人○○が払戻しを受けたうえで、相続人△△に2分の1、相続人□□に2分の1の割合で分配する」といった内容を、金融機関名・支店名・口座の種類・口座番号まで特定して書くことになります。協議書の内容と実際のお金の流れが食い違うと、後で説明がつかなくなり、税務上の扱いが問題になることもあります。協議書の基本的な記載事項は遺産分割協議書のひな形で解説していますが、実際の作成は行政書士法人みらいが、税務上の確認は税理士法人みらいが担当します。
受け取ったお金は代表相続人のものになる?
遺産分割で代表相続人が取得すると決めた分を除き、代表相続人が受け取ったお金は代表相続人のものではありません。ほかの相続人から委任を受けて受け取った金銭は、委任した人に引き渡す義務があります。
民法第646条は、委任を受けた人は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭を委任者に引き渡さなければならないと定めています。また民法第645条により、求められればいつでも処理の状況を報告し、委任が終わった後は遅滞なく経過と結果を報告しなければなりません。受け取ったお金を分ける具体的な段取りは別の記事で詳しく取り上げる予定ですが、少なくとも、入金の記録と立て替えた費用の領収書は必ず残しておいてください。
まとめ
代表相続人は、民法上の地位ではなく、金融機関などの手続きで窓口と受取りを担う役割です。権限はほかの相続人全員の同意や委任から生まれるため、請求書には全員の署名と実印が求められ、代表相続人になったからといって遺産を多く受け取れるわけではありません。
税金の「相続人の代表者」や固定資産税の相続人代表者指定届は、書類を受け取る人を届け出る別の制度です。金融機関の代表相続人を決めるときは、平日に動けるか、書類を管理できるか、ほかの相続人と連絡が取れるかを基準に、遺産分割協議書の書き方とあわせて相続人全員で話し合っておくと安心です。
▶ 代表相続人になったものの、仕事の合間に金融機関とのやり取りを抱えきれずにいませんか?
代表相続人の負担は、金融機関の数と相続人の人数に比例して重くなります。戸籍の取り寄せから各金融機関への書類の提出まで、代表相続人の方と一緒に当センターが段取りを組みます。
西東京市ひばりが丘の相続サポートセンターが、ご相談の窓口をひとつにまとめます。戸籍の収集や金融機関の手続きは当センター、遺産分割協議書は行政書士法人みらい、相続税の申告は税理士法人みらいが担当します。初回相談は無料です。
よくある質問
Q. 代表相続人は長男でなければいけませんか?
いいえ。代表相続人の決め方に法律上の決まりはなく、長男に限られません。平日に金融機関と連絡が取れ、書類を管理でき、ほかの相続人と連絡が取れる人を、相続人全員の話し合いで選びます。
Q. 代表相続人になると遺産を多く受け取れますか?
いいえ。代表相続人は手続きの窓口と受取りを担う役割で、取得する遺産の額は遺言か相続人全員の遺産分割協議で決まります。遺産分割で代表相続人の取得分と決めた部分を除き、受け取ったお金はほかの相続人に引き渡す必要があります(民法第646条)。
Q. 代表相続人がいれば、ほかの相続人の実印や印鑑証明書は不要ですか?
通常は必要です。たとえばゆうちょ銀行の貯金等相続手続請求書には、代表相続人以外の相続人が実印を押す欄があり、必要書類として相続人の印鑑登録証明書が案内されています。代表相続人の権限は、ほかの相続人の同意や委任から生まれるためです。
Q. 固定資産税の「相続人代表者」と金融機関の代表相続人は同じですか?
別のものです。固定資産税の相続人代表者指定届は、地方税法第9条の2に基づき、納税通知書など地方税の書類を受け取る代表者を市区町村などに届け出るものです。同じ人にすることはできますが、それぞれ別に手続きが必要です。
Q. 遠方に住む相続人がいても代表相続人を立てられますか?
立てられます。遠方の相続人には所定用紙や遺産分割協議書を郵送し、署名と実印の押印、印鑑証明書の返送をお願いする形で進めるのが一般的です。書類の往復に時間がかかるため、送る前に記入箇所に印を付けておくと返送の不備を減らせます。