要 この記事の要点
- 必要な通数は、原本が戻ってこない提出先の数で決まります。相続人ごとに提出先を書き出し、返却してもらえる提出先は順番に使い回します
- 法務局の相続登記では、遺産分割協議書に添付する印鑑証明書に「作成後3か月以内」といった制約はないと法務局が案内しています
- 金融機関は発行から6か月以内を求める例が多く(ゆうちょ銀行・三菱UFJ銀行・野村證券の各案内)、自動車の名義変更は発行から3か月以内です
- 相続税の申告で配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使う場合は、相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)を添付します
相続手続きを始めると、銀行でも証券会社でも法務局でも「相続人全員の印鑑証明書」を求められます。相続人が4人いれば、提出先が5か所あるだけで単純計算で20通。しかも提出先によって有効期限が違い、早く取りすぎると使えなくなります。
この記事では、提出先ごとの有効期限を一次情報で確かめたうえで、必要な通数の数え方と、原本を返してもらって使い回す方法を整理します。
相続手続きで印鑑証明書が求められるのはなぜ?
相続手続きの印鑑証明書は、遺産分割協議書や金融機関の請求書に押された印が、その相続人の実印であることを証明するために求められます。書類に実印を押した人の分が必要です。
印鑑証明書(印鑑登録証明書)は、住所地の市区町村に登録した印鑑(実印)の印影を証明する書類です。遺産分割協議書や金融機関の所定用紙に相続人が実印を押し、その印鑑証明書を添えることで、本人が内容に同意したことを確認できる仕組みです。
誰の分が必要かは、手続きの形によって変わります。
- 遺産分割協議で分ける場合:協議に参加した相続人全員の分
- 遺言書がある場合:遺言執行者や、財産を受け取る人の分(金融機関によって異なります)
- 相続放棄をした人:初めから相続人とならなかったものとみなされる(民法第939条)ため、遺産分割協議には加わりません
印鑑登録をしていない相続人は、まず住所地の市区町村で印鑑登録をする必要があります。取得方法や手数料は市区町村ごとに異なるため、お住まいの市区町村の案内をご確認ください。
提出先ごとの有効期限はどう違う?
法務局の相続登記で遺産分割協議書に添付する印鑑証明書には有効期限がありません。一方、金融機関は発行から6か月以内を求める例が多く、自動車の名義変更は発行から3か月以内です。
| 提出先 | 有効期限の扱い | 確認した案内 |
|---|---|---|
| 法務局(相続登記) | 遺産分割協議書に押印した印鑑の証明書は期限なし | 法務局「相続による所有権の登記の申請に必要な書類」、登記手続ハンドブック |
| ゆうちょ銀行 | 市役所等で発行してから6か月以内 | ゆうちょ銀行 よくあるご質問 |
| 三菱UFJ銀行 | 発行日より6か月以内 | 三菱UFJ銀行「ご用意いただく書類」 |
| 野村證券 | 発行より6か月以内の原本 | 野村證券「相続のお手続き」 |
| 運輸支局(自動車の移転登録) | 新所有者の印鑑証明書は発行日から3か月以内 | 北海道運輸局「相続による移転登録」 |
| 税務署(相続税の申告) | 国税庁の提出書類一覧表に期限の記載はなし。特例を使う場合に相続人全員分を添付 | 国税庁「相続税の申告の際に提出していただく主な書類」 |
ここで混乱しやすいのが法務局です。不動産登記令第16条第3項には「作成後三月以内」という定めがありますが、これは登記申請書に記名押印した人の印鑑証明書についての規定です。法務局の登記手続ハンドブックは、相続登記で遺産分割協議書に添付する印鑑証明書について「作成後3か月以内のものといった制約はありません」と明記しています。また同じハンドブックでは、遺産分割協議を行った相続人のうち、登記を申請する相続人自身の印鑑証明書は添付不要とされています。
金融機関の期限は各社が独自に決めているもので、上の表はあくまで例です。地方銀行や信用金庫、ほかの証券会社では異なることがあるため、提出前に必ずそれぞれの案内で確認してください。
必要な通数はどう数える?
印鑑証明書の必要通数は、相続人ごとに「原本を手元に返してもらえない提出先の数」を数えて決めます。原本を返してもらえる提出先は、有効期限内であれば一通を順番に使い回せます。
数え方は次の三段階です。
- 提出先をすべて書き出す:預貯金のある金融機関、証券会社、法務局、税務署、運輸支局など
- 提出先ごとに「期限」と「原本が戻るか」を確認する
- 原本が戻らない提出先の数 + 使い回し用の1通を、相続人ごとの必要通数とする
たとえば、提出先が銀行2行・証券会社1社・法務局・税務署の5か所あるとします(数字は説明のための仮の例です)。すべての提出先で原本が戻らなければ、相続人一人につき5通が必要です。一方、銀行と証券会社が原本を返してくれる場合は、その3か所は1通を順番に回せるため、法務局用・税務署用と合わせて3通程度で足りる計算になります。相続人が4人なら、20通と12通の差になります。
ただし、使い回すと手続きは順番に進むことになり、全体の期間は延びます。急ぐ金融機関の分だけ別に用意するなど、通数と期間のバランスで決めるのが現実的です。複数の手続きを同時に進める場合は、戸籍の束の代わりになる法定相続情報一覧図の写しもあわせて検討してください(印鑑証明書の代わりにはなりません)。
原本は返してもらえる?
法務局には添付書類の原本還付の制度があり、金融機関も原本の返却に応じる例があります。ただし返却の可否は書類と提出先によって異なるため、提出するときに返却を希望すると伝え、可否を確認します。
法務局では、不動産登記規則第55条により、添付した書類のコピーに「原本に相違ありません」と記載して署名(記名)押印したものを一緒に出すと、審査の後に原本を返してもらえます。相続登記では、相続関係説明図を出せば戸籍の証明書のコピーを付けなくても還付を受けられます。一方で、その登記申請のためだけに作成した書面や一定の重要な書面は還付されないとされているため、印鑑証明書を返してもらえるかは、申請する法務局に確認してください。相続登記の申請は、提携する司法書士が担当します。
金融機関では、ゆうちょ銀行のよくあるご質問で、相続手続きで提出した戸籍謄本は手続き完了後に郵送で返却し、希望すれば戸籍謄本や証明書類(公的書類等)を提出時にコピーしてその場で返却することも可能とされています。ほかの金融機関でも返却に応じる場合があるため、提出時に「原本の返却を希望します」と伝えておきましょう。
使い回しの順番を考えるときは、有効期限の違いが手がかりになります。期限の短い金融機関や運輸支局に新しい証明書を回し、期限のない法務局には少し前に取ったものを使う、という順番にすると、取り直しを減らせます。
印鑑証明書はいつ取ればよい?
印鑑証明書は、遺産分割協議の内容が固まり、署名・押印する時期に合わせて取るのが基本です。早く取りすぎると、金融機関の6か月などの期限を手続きの途中で過ぎてしまいます。
相続人の確定や財産の調査に時間がかかると、協議がまとまるまで数か月かかることも珍しくありません。手続きの初めにまとめて取っておくと、提出する頃には期限が切れていることがあります。次の点も確認しておきましょう。
- 実印と証明書の一致:協議書に押す印は、印鑑証明書と同じ実印でなければなりません。途中で印鑑登録をやり直すと、古い証明書は使えなくなります。
- 住所の表記:協議書や請求書の住所は、印鑑証明書の表記どおりに書きます(「1-2-3」ではなく「一丁目2番3号」など)。書き方の注意点は遺産分割協議書のひな形で解説しています。
- 原本かコピーか:法務局の案内では添付書面は原本が必要で、野村證券も原本を求めています。コピーで足りるかどうかは提出先の案内に従ってください。
海外に住む相続人はどうする?
日本に住民登録のない海外在住の相続人は、印鑑証明書の代わりに、在外公館(日本大使館・総領事館)で署名証明(サイン証明)を受けるのが一般的です。
外務省の案内では、署名証明は日本に住民登録をしていない海外在留者に対し、印鑑証明に代わるものとして発給され、本人の署名(及び拇印)が領事の面前でなされたことを証明するものです。本人が在外公館に出向く必要があり、代理申請や郵送申請はできません。証明の形式は、遺産分割協議書などの書類と綴り合わせて割り印する形式と、署名だけを単独で証明する形式の2種類があり、どちらにするかは提出先に確認するよう案内されています。
海外の相続人がいる場合は、書類を送ってから戻るまでに時間がかかります。日本側の手続きの全体像は国際相続の基礎知識もご覧ください。
まとめ
相続手続きの印鑑証明書は、相続人ごとに「原本が戻らない提出先の数」を基準に数えます。法務局の相続登記で遺産分割協議書に添付する分には有効期限がなく、金融機関は発行から6か月以内、自動車の名義変更は3か月以内といった違いがあるため、期限の短い提出先に新しいものを回す順番で使い回すと無駄がありません。
取る時期は、遺産分割協議がまとまって署名・押印する頃が目安です。相続人が多い場合や遠方・海外の相続人がいる場合は、通数と取得時期を最初に一覧にして全員に伝えておくと、取り直しの往復を防げます。
▶ 「印鑑証明書をもう一度取ってきて」と、相続人に何度もお願いしていませんか?
取り直しが重なると、相続人どうしの関係にも負担がかかります。提出先と有効期限を一覧にして、必要な通数と取る時期をまとめてご案内するところから、当センターがお手伝いします。
西東京市ひばりが丘の相続サポートセンターが、ご相談の窓口をひとつにまとめます。戸籍の収集や金融機関の手続きは当センター、遺産分割協議書は行政書士法人みらい、相続税の申告は税理士法人みらいが担当します。初回相談は無料です。
よくある質問
Q. 相続登記に使う印鑑証明書は3か月以内のものでないといけませんか?
いいえ。法務局の登記手続ハンドブックでは、相続登記で遺産分割協議書に添付する印鑑証明書について「作成後3か月以内のものといった制約はありません」とされています。不動産登記令の3か月の定めは、登記申請書に記名押印した人の印鑑証明書についての規定です。
Q. ある銀行で使った印鑑証明書を、別の銀行で使い回せますか?
原本を返してもらえれば、次の提出先の有効期限内である限り使えます。ゆうちょ銀行は証明書類を提出時にコピーしてその場で返却することも可能と案内しています。金融機関ごとに期限と返却の扱いが違うため、提出時に返却を希望すると伝え、期限の短いところから順に回します。
Q. 相続放棄をした人の印鑑証明書も必要ですか?
相続放棄をした人は、初めから相続人とならなかったものとみなされる(民法第939条)ため、遺産分割協議に加わらず、協議書への押印も不要です。ただし金融機関などでは、放棄したことを確認できる書類を求められることがあるため、提出先に確認してください。
Q. 印鑑証明書はコピーでも足りますか?
原本を求められるのが基本です。法務局の案内では登記申請の添付書面は原本が必要とされ、野村證券も発行から6か月以内の原本を求めています。相続税の申告書に添付する書類の扱いは、申告を担当する税理士に確認してください。
Q. 海外に住んでいて印鑑登録がない相続人はどうすればよいですか?
日本に住民登録のない方は、在外公館で署名証明(サイン証明)を受けるのが一般的です。外務省の案内では、本人が在外公館に出向いて領事の面前で署名する必要があり、代理や郵送では申請できません。