要 この記事の要点
- 敷地権付き区分建物なら、専有部分の相続登記だけで土地の権利も一体で移転します(敷地権がない古い物件は土地も別途登記が必要)
- 2024年1月1日以後に取得した居住用の区分所有財産は、区分所有補正率による新しい相続税評価が適用されます
- 管理費・修繕積立金の滞納は相続人が承継し、区分所有法第8条により売却しても買主に請求が及びます
- 相続空き家の3,000万円特別控除は区分所有建物を対象外としているため、分譲マンションでは原則使えません
親が住んでいた分譲マンションを相続した、あるいは賃貸に出していたマンションを引き継いだ。こうしたご相談は年々増えています。マンションは戸建てと違って「建物」と「土地」の権利関係が特殊で、さらに管理組合という組織が関わるため、戸建ての相続とは確認すべきポイントが変わります。
この記事では、マンションを相続したときの名義変更(相続登記)の仕組み、2024年から変わった相続税評価のルール、管理費・修繕積立金の扱い、賃貸中の場合の注意点、そして売却するときの税金の特例まで、順を追って解説します。
マンション相続で最初に確認すべきこと
マンションを相続したら、まず登記事項証明書(登記簿謄本)を取り寄せて、次の3点を確認します。
- 敷地権の有無:表題部に「敷地権の表示」があるか
- 名義人:被相続人の単独名義か、配偶者などとの共有か
- 抵当権などの担保:権利部(乙区)に住宅ローンの抵当権が残っていないか
あわせて、管理組合・管理会社に連絡して管理費等の状況を確認し、賃貸に出している場合は賃貸借契約書を確認します。この最初の情報整理で、その後の手続きの難易度がほぼ見えてきます。
敷地権付き区分建物の登記の仕組み
分譲マンションの一室は、法律上「区分建物(専有部分)」と呼ばれます。そして、そのマンションが建っている土地を使う権利が「敷地利用権」です。
敷地権とは「土地と建物が一体になった状態」
現在の多くのマンションでは、専有部分と敷地利用権を分離して処分できないようにしたうえで、その敷地利用権を「敷地権」として登記しています。この状態であれば、専有部分について相続登記を行えば、敷地権も自動的に一体で移転します。土地について別に登記申請をする必要はなく、登録免許税も一体で計算します。
敷地権がない古いマンションもある
一方、1984年の区分所有法・不動産登記法改正以前に分譲された古いマンションや団地では、敷地権化されていないことがあります。この場合、建物(専有部分)と土地(共有持分)が別々に登記されているため、建物と土地の両方について相続登記が必要です。土地の持分を登記し忘れると、後日売却しようとした段階で発覚し、あらためて手続きが必要になります。
登記事項証明書の見方
区分建物の登記事項証明書は、一般の建物より構成が複雑です。ポイントを整理します。
- 一棟の建物の表示:マンション全体の所在・構造・床面積
- 敷地権の目的である土地の表示:敷地の所在・地番・地積
- 専有部分の建物の表示:家屋番号、部屋の種類・構造・床面積
- 敷地権の表示:敷地権の種類(所有権・賃借権など)と割合。ここに記載があれば敷地権付きです
- 権利部(甲区):所有権に関する事項。現在の名義人を確認します
- 権利部(乙区):抵当権など所有権以外の権利
なお、専有部分の床面積は「内法(うちのり)面積」で登記されており、販売パンフレットの壁芯面積より小さくなるのが通常です。小規模宅地等の特例の面積判定などで混乱しやすい部分なので、注意してください。
マンションの相続登記の流れ
手続きの流れ自体は戸建てと同じです。2024年4月1日から相続登記は義務化されており(不動産登記法第76条の2)、取得を知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になり得ます。
ステップ1:戸籍収集で相続人を確定
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍と、相続人全員の現在の戸籍を集めます。
ステップ2:遺産分割協議
誰がマンションを取得するかを相続人全員で協議し、遺産分割協議書にまとめます。物件の表示は登記事項証明書のとおりに正確に記載します。マンションは物理的に分けられないため、複数の相続人で共有名義にすると将来の売却や修繕の意思決定で全員の同意が必要になり、トラブルの原因になりがちです。共有不動産の相続のリスクもふまえ、代償分割や換価分割を含めて検討しましょう。
ステップ3:法務局へ登記申請
登記申請書に戸籍一式・住民票の除票・遺産分割協議書・印鑑証明書・取得者の住民票・固定資産評価証明書などを添えて、物件の所在地を管轄する法務局に申請します。西東京市・東久留米市・小平市・東村山市・清瀬市の物件であれば東京法務局田無出張所が管轄です。必要書類の詳細は相続登記の必要書類一覧をご覧ください。
登録免許税の計算
登録免許税は固定資産税評価額×0.4%です。マンションの場合、建物(専有部分)の評価額と、敷地権割合に応じた土地の評価額を合計して計算します。たとえば建物600万円・土地持分900万円で合計1,500万円なら、1,500万円×0.4%=6万円が目安です。金額は目安であり、実際の評価額により変動します。
マンションの相続税評価|2024年からの新ルール
マンションの相続税評価は、これまで「建物は固定資産税評価額、土地は路線価×敷地権割合」で計算されてきました。しかしこの方法では、高層階の住戸や都心の高額物件で、市場価格と相続税評価額が大きく乖離することが問題視されていました。
区分所有補正率の導入
そこで国税庁は、個別通達「居住用の区分所有財産の評価について」を定め、2024年(令和6年)1月1日以後に相続・遺贈・贈与によって取得した居住用の区分所有財産について、新しい評価方法を適用することとしました。いわゆるタワーマンション節税への対応として導入されたものです。
仕組みを大まかに説明すると、次のようになります。
- 築年数、総階数、所在階、敷地持分の狭小度という4つの要素から「評価乖離率」を求める
- その逆数として「評価水準」を計算する
- 評価水準が0.6未満の場合、従来の評価額に区分所有補正率を乗じて評価額を引き上げる
- 評価水準が1を超える場合は、逆に評価額を引き下げる補正を行う
- 評価水準が0.6以上1以下であれば、従来どおりの評価額のまま
結果として、高層階・築浅・敷地持分が小さい物件ほど評価額が上がりやすくなります。一般的には、市場価格に対しておおむね6割の水準に近づける仕組みと理解しておくとよいでしょう。
対象外となるもの
すべての集合住宅が対象になるわけではありません。地階を除く階数が2以下の低層の集合住宅や、居住用の専有部分が3以下ですべてを区分所有者またはその親族の居住用としているもの(二世帯住宅など)は対象外とされています。また、事業用のテナントや、たな卸商品等も対象外です。
具体的な補正率の計算には登記事項証明書上の築年数・総階数・所在階・敷地持分の面積などの情報が必要で、手計算では誤りが生じやすい部分です。相続税の申告が必要になりそうな場合は、税理士による計算をおすすめします。
管理費・修繕積立金の扱い
滞納分は相続人が承継する
被相続人が滞納していた管理費・修繕積立金の支払義務は、相続人が承継します。さらに、建物の区分所有等に関する法律第8条により、管理組合はこれらの債権を特定承継人(買主など)に対しても行使できるとされています。つまり、滞納を残したままマンションを売却しても、買主に請求が及ぶため問題は解消しません。売却の際は滞納の精算が事実上の前提になります。
相続が発生したら、できるだけ早く管理組合または管理会社に連絡し、次の点を確認してください。
- 管理費・修繕積立金の滞納の有無と金額
- 毎月の管理費・修繕積立金の額と、将来の値上げ予定
- 修繕積立金の残高と長期修繕計画の内容
- 大規模修繕に伴う一時金徴収の予定
- 駐車場・駐輪場の使用契約の有無(相続で自動的に承継されるとは限りません)
滞納額が大きく、他の負債とあわせて資産を上回るような場合には、相続放棄を検討すべきケースもあります。相続放棄は自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内という期限があるため、早めの判断が必要です。
管理組合への届出
区分所有者が変わった場合は、管理規約に基づき管理組合へ届け出るのが一般的です。届出をしないと総会招集通知や重要な連絡が届かず、修繕や規約変更の議決に参加できないなどの不利益が生じます。相続登記が完了したら、登記事項証明書を添えて速やかに届け出ましょう。なお、遺産分割が済むまでの間も管理費の支払義務は発生し続けます。誰がいつ支払うのかを相続人間で決めておくと、滞納の発生を防げます。
賃貸中のマンションを相続した場合
被相続人が賃貸に出していたマンションを相続した場合、賃貸人としての地位もそのまま承継します。
敷金返還債務も引き継ぐ
賃貸物件の所有権が移転すると、賃貸人としての地位が新所有者に移り、敷金の返還債務も引き継がれます。つまり、被相続人が受け取っていた敷金であっても、退去時に精算して返還する義務を負うのは相続人です。相続財産としてはプラスの家賃収入がある一方、将来の返還債務というマイナスも同時に抱えることになります。賃貸借契約書で敷金の額を必ず確認してください。詳しくは賃貸借契約と敷金の相続で解説しています。
家賃の帰属と確定申告
相続開始後、遺産分割が確定するまでの間に発生した家賃は、原則として相続人が法定相続分に応じて取得するものとされています。誰がいくら受け取ったかは所得税の確定申告に影響しますので、管理会社からの送金先や精算方法を早めに整理しておきましょう。また、被相続人の死亡した年の不動産所得については、相続人が準確定申告(相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内)を行う必要があります。
賃借人への通知
所有者が変わったことを賃借人に通知し、家賃の振込先を変更してもらいます。相続登記を済ませておかないと、賃借人や管理会社から所有者であることの証明を求められた際に対応できないことがあります。
相続したマンションを売却する場合の税金
マンションを売却して現金化し、相続人間で分ける(換価分割)という選択も多く採られます。売却益が出た場合は譲渡所得として所得税・住民税の課税対象になります。
売却の前に相続登記が必要
被相続人名義のままでは売却できません。必ず相続登記を済ませて、売主の名義にしておく必要があります。買主が決まってから登記に着手すると決済までに間に合わないこともあるため、売却を考えるなら早めに登記を進めましょう。
相続空き家の3,000万円特別控除は原則使えない
ここが最も誤解の多いポイントです。相続した空き家を売ったときの3,000万円特別控除(租税特別措置法第35条第3項)は、対象となる家屋から区分所有建物登記がされている建物を除外しています。したがって、分譲マンションは原則としてこの特例の対象外です。「実家を売れば3,000万円控除が使えると思っていたが、マンションだったので使えなかった」という事態を避けるためにも、事前の確認が欠かせません。
使える可能性がある特例
一方で、次の特例は検討の余地があります。
- 居住用財産の3,000万円特別控除(措置法第35条第1項):相続人自身がそのマンションに住んでいて、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する場合など、一定の要件を満たせば適用できます。
- 相続税の取得費加算の特例(措置法第39条):相続税を納付した人が、相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却した場合、納めた相続税のうち一定額を取得費に加算でき、譲渡所得を圧縮できます。
譲渡所得の計算や税率については相続した不動産を売却したときの税金で詳しく解説しています。
よくある質問
Q1. マンションの相続登記は、建物と土地を別々に申請する必要がありますか?
敷地権付きのマンションであれば、専有部分の相続登記だけで敷地利用権も一体で移転するため、土地の登記は不要です。ただし敷地権化されていない古いマンションでは、建物と土地の両方について登記が必要です。登記事項証明書の表題部に「敷地権の表示」があるかどうかで判断できます。
Q2. 2024年からマンションの相続税評価が変わったと聞きましたが本当ですか?
はい。国税庁の個別通達「居住用の区分所有財産の評価について」により、2024年1月1日以後に相続等で取得した居住用の区分所有財産には、区分所有補正率を用いた新しい評価方法が適用されます。市場価格との乖離が大きい物件で評価額が引き上げられる仕組みで、低層の集合住宅や二世帯住宅など一定のものは対象外です。
Q3. 被相続人が滞納していた管理費や修繕積立金は誰が払うのですか?
相続人が承継します。区分所有法第8条により特定承継人にも請求できるため、売却しても解消しません。相続後は早めに管理組合・管理会社へ連絡し、滞納額を確認してください。
Q4. 相続したマンションを売却する場合、3,000万円の特別控除は使えますか?
相続空き家の3,000万円特別控除は区分所有建物を対象外としているため、分譲マンションでは原則使えません。ただし相続人自身が住んでいた場合は居住用財産の3,000万円特別控除の対象となり得ますし、相続税を納めていれば取得費加算の特例も検討できます。売却前にご相談ください。
まとめ
マンションの相続は、まず登記事項証明書で敷地権の有無と名義・担保を確認し、管理組合に滞納状況を照会するところから始まります。敷地権があれば専有部分の登記だけで足りますが、古い物件では土地の持分登記を忘れないよう注意が必要です。
相続税の面では、2024年1月1日以後に取得した居住用の区分所有財産に区分所有補正率が適用され、従来より評価額が上がるケースがあります。また、売却時に相続空き家の3,000万円特別控除が使えない点は、戸建てとの決定的な違いです。マンション特有のルールを知らないまま進めると、想定外の税負担や手戻りが生じかねません。早い段階で全体像を確認しておきましょう。
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