手続き2026年8月5日最終更新: 2026.08.05

この記事の要点

  • 仮払い制度は民法第909条の2(2019年7月1日施行)に基づく制度で、ゆうちょ銀行でも利用できる。遺産分割前でも各相続人が単独で払戻しを請求できる
  • 計算式は相続開始時の貯金額 × 1/3 × その相続人の法定相続分1金融機関あたり150万円が上限(平成30年法務省令第29号)
  • 使途は問われない。葬儀費用に限らず、生活費や債務の返済にも充てられる
  • 相続放棄を検討中の方は使ってはいけない。払い戻して費消すると民法第921条第1号の単純承認とみなされ、放棄できなくなるおそれがある

お父様やお母様が亡くなられた直後、まず直面するのが葬儀費用の支払いです。ところが、亡くなった方の口座はゆうちょ銀行が死亡を把握した時点で凍結され、通常であれば相続手続きが完了するまで引き出せません。

こうした事態に対応するために設けられているのが、預貯金の払戻し制度(いわゆる仮払い制度)です。民法第909条の2に基づく法律上の制度であり、ゆうちょ銀行でも利用できます。この記事では、引き出せる金額の考え方、ゆうちょ銀行での申請の流れ、必要書類、家庭裁判所の保全処分との違い、そして葬儀費用に充てる際にとくに注意すべき「相続放棄への影響」を解説します。

なお、金融機関ごとの受付方法や所定用紙の名称・様式は変更されることがあります。実際の手続き方法は郵便局窓口またはゆうちょ銀行公式サイトでご確認ください。

仮払い制度とは(民法第909条の2)

かつて預貯金は、相続開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割されると解されていました。しかし、最高裁平成28年12月19日大法廷決定により、預貯金債権も遺産分割の対象となると判例が変更されました。その結果、遺産分割協議がまとまるまでは相続人が単独で引き出せなくなり、葬儀費用や当面の生活費に困る相続人が続出しました。

この問題に対応するため、2018年に成立した改正民法(平成30年法律第72号)で民法第909条の2が新設され、2019年7月1日に施行されました。各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち一定額について、遺産分割を待たずに単独で権利を行使できるようになりました。

ゆうちょ銀行の貯金も、この制度の対象となる預貯金債権に含まれます。制度の全体像については預貯金の払戻し制度の使い方で詳しく解説しています。本記事はゆうちょ銀行での実務に絞って整理します。

引き出せる金額の計算

払戻しを請求できる金額は、次の算式で計算します。

払戻し可能額 = 相続開始時の貯金額 × 1/3 × その相続人の法定相続分

そのうえで、1つの金融機関につき150万円という上限があります(平成30年法務省令第29号)。ゆうちょ銀行は全体で1つの金融機関として扱われるため、複数の記号番号の貯金があっても、ゆうちょ銀行から引き出せるのは合計150万円までとなるのが原則です。

具体例1:計算額が上限に届かない場合

被相続人のゆうちょ銀行の貯金が600万円、相続人が配偶者と子2人のケース。

  • 配偶者(法定相続分1/2):600万円 × 1/3 × 1/2 = 100万円
  • 子それぞれ(法定相続分1/4):600万円 × 1/3 × 1/4 = 50万円

いずれも150万円に届かないため、計算額がそのまま払戻し可能額になります。

具体例2:上限で頭打ちになる場合

貯金が1,800万円、相続人が配偶者1人のケース。計算上は 1,800万円 × 1/3 × 1 = 600万円ですが、上限により実際に払い戻せるのは150万円までです。

ただし、この上限は「1金融機関ごと」です。被相続人が他の銀行にも口座を持っていれば、その銀行でも別途150万円を上限に請求できます。ゆうちょ銀行で150万円、地方銀行で150万円というように、金融機関の数だけ枠があると考えてください。

ゆうちょ銀行での申請の流れ

取扱いは変更されることがありますが、一般的には次のような流れになります。

  1. 郵便局の貯金窓口で相談する 「民法第909条の2の払戻しを希望します」と伝えると話が早く進みます。「仮払い制度」「葬儀費用の払戻し」といった言い方でも通じるのが通常です。
  2. 相続開始時の残高を確認する 払戻し可能額は「相続開始時の貯金額」を基準に計算するため、残高の確認が前提になります。通帳がない場合は貯金等照会(現存調査)で調べてもらいます。
  3. 所定の依頼書に記入する 金融機関所定の払戻し依頼書に記入・押印します。用紙の名称や様式は変更されることがあるため、窓口の案内に従ってください。
  4. 必要書類とあわせて提出する 戸籍関係書類、印鑑証明書、本人確認書類などを添えて提出します。
  5. 審査を経て払戻し 書類の確認が済むと、指定した方法で払戻しが行われます。

注意したいのは、その場で即日現金を受け取れるとは限らない点です。ゆうちょ銀行は相続関係の書類確認を貯金事務センターで行うため、申請から入金まで日数を要するのが通常です。葬儀費用の支払期日が迫っている場合は、この制度だけに頼らず、葬儀社への支払時期の相談も並行して進めておくと安心です。

必要書類

一般的に、次のような書類が求められます。実際に必要な書類は窓口の案内に従ってください。

  • 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
  • 相続人全員を確認できる戸籍謄本
  • 払戻しを請求する相続人の印鑑登録証明書
  • 払戻しを請求する相続人の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
  • 金融機関所定の払戻し依頼書
  • 被相続人の通帳・貯金証書(ある場合)

ここで意外に思われるのが、相続人全員分の戸籍が必要になる点です。払戻し可能額は「その相続人の法定相続分」を掛けて計算するため、法定相続分を確定させるには相続人の全体像を明らかにする必要があるからです。「単独で請求できる」からといって「自分の書類だけで済む」わけではありません。

なお、法定相続情報一覧図の写しを用意しておくと、戸籍一式の提出を簡略化できる場合があります。戸籍の集め方は戸籍謄本の収集方法をご覧ください。

家庭裁判所の保全処分との違い

150万円では足りない場合、もう一つの手段として、家事事件手続法第200条第3項に基づく遺産分割審判前の保全処分があります。両者の違いを整理します。

民法第909条の2による払戻し

  • 金融機関の窓口で完結し、裁判所の関与は不要
  • 他の相続人の同意も不要
  • 1金融機関150万円という上限がある
  • 使途を問われない

家庭裁判所の保全処分

  • 150万円の上限がなく、必要額に応じた払戻しが認められる可能性がある
  • 遺産分割の調停または審判の申立てが前提となる
  • 「権利行使の必要性」があり、かつ「他の共同相続人の利益を害しないこと」を裁判所に疎明する必要がある
  • 手続きに時間と費用がかかる

実務上、葬儀費用や当面の生活費であれば民法第909条の2の払戻しで足りることが多く、それを超える多額の資金需要(被相続人の事業債務の返済、多額の医療費など)がある場合に保全処分を検討する、という使い分けになります。

葬儀費用に充てる場合の重大な注意点

この制度で最も注意していただきたいのが、相続放棄への影響です。

単純承認とみなされるリスク(民法第921条)

民法第921条第1号は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなすと定めています。仮払い制度で引き出した貯金を費消すると、この「処分」に当たると評価され、相続放棄ができなくなるおそれがあります。

被相続人に借金があるかもしれない、財産と負債のどちらが多いか分からない――そうした段階にある方は、この制度を使ってはいけません。まず相続財産調査で全体像を把握し、相続放棄の要否を判断してから行動してください。相続放棄には原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」という期限(民法第915条)がある点にもご注意ください。

使途は問われないが、記録は残す

制度上、払い戻したお金の使いみちは問われません。葬儀費用に限らず、生活費や被相続人の未払医療費、公共料金の支払いなどにも使えます。

ただし、他の相続人との関係では話が別です。民法第909条の2第2項により、払い戻した額はその相続人が遺産分割によって取得したものとみなされます。つまり、後の遺産分割で精算されます。「葬儀費用に使ったのだから自分の取り分ではない」と主張するには、領収書や明細を保管し、何にいくら使ったかを説明できるようにしておくことが不可欠です。葬儀費用の相続税上の取扱いについては葬儀費用と相続税もあわせてご確認ください。

西東京市・清瀬市の当センターへのご相談でも、「良かれと思って立て替えたのに、後から使い込みを疑われた」というケースは少なくありません。可能であれば、払戻しの前に他の相続人へひと言伝えておくことをおすすめします。

まとめ

ゆうちょ銀行でも、民法第909条の2に基づく仮払い制度を利用できます。金額は「相続開始時の貯金額 × 1/3 × 法定相続分」で計算し、1金融機関あたり150万円が上限です。裁判所の関与も他の相続人の同意も不要で、使途は問われません。

一方で、払い戻して費消すると単純承認とみなされ相続放棄ができなくなるおそれがあること、後の遺産分割で精算されることは必ず押さえておいてください。ゆうちょ銀行では書類確認に日数を要するのが通常ですので、資金の必要時期から逆算して早めに動くことが大切です。

葬儀費用の支払いが迫っているのに、故人の口座が凍結されて動かせずお困りではありませんか?

仮払い制度は使える金額も必要書類も決まっており、相続放棄との関係で使ってはいけないケースもあります。ご事情をうかがったうえで、使うべきかどうかの判断からお手伝いします。

西東京市ひばりが丘の相続サポートセンターなら、戸籍収集から遺産分割・不動産名義変更・相続税申告まで、税理士・行政書士・司法書士が連携してワンストップで対応します。初回相談は無料です。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. ゆうちょ銀行で仮払いを受けるには何と言えばよいですか?

郵便局の貯金窓口で「民法第909条の2の払戻し制度を利用したい」と伝えるのが最も確実です。「仮払い制度」「葬儀費用の払戻し」といった言い方でも通じるのが通常です。所定の依頼書の名称や様式は変更されることがあるため、窓口の案内に従ってご記入ください。

Q. ゆうちょ銀行に複数の貯金がある場合、それぞれ150万円ずつ引き出せますか?

いいえ。150万円の上限は「1金融機関ごと」に適用されます。ゆうちょ銀行に通常貯金と定額貯金など複数の貯金があっても、ゆうちょ銀行全体で合計150万円までとなるのが原則です。ただし、被相続人が他の銀行にも口座を持っていれば、その銀行では別途150万円を上限に請求できます。

Q. 引き出したお金は葬儀費用にしか使えませんか?

いいえ、使途は問われません。生活費、被相続人の未払医療費、公共料金の支払いなどにも充てられます。ただし、払い戻した額はその相続人が遺産分割で取得したものとみなされ(民法第909条の2第2項)、後の遺産分割で精算されます。何に使ったかを説明できるよう、領収書や明細を保管しておいてください。

Q. 相続放棄を考えているのですが、仮払いを受けても大丈夫ですか?

おすすめできません。払い戻して費消すると、民法第921条第1号の「相続財産の処分」に当たると評価され、単純承認をしたものとみなされて相続放棄ができなくなるおそれがあります。被相続人に借金がある可能性がある場合は、まず財産と負債の全体像を調べ、放棄の要否を判断してから行動してください。

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※免責事項:本記事は2026年8月時点の法令等に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・税務アドバイスを行うものではありません。金融機関の受付方法・所定用紙・必要書類は変更されることがあります。最新の情報は郵便局窓口またはゆうちょ銀行公式サイトでご確認いただくか、専門家にお問い合わせください。

この記事の監修

株式会社 相続サポートセンター(みらいグループ)

税理士法人みらいを中心に、行政書士・社労士・不動産の専門家が連携。西東京市を拠点に、相続手続き・遺言書作成のワンストップサポートを提供しています。

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