要 この記事の要点
- 前妻の子(離婚した妻との間の子)は、親権や同居の有無に関係なく第一順位の相続人です(民法第887条第1項)
- 「全財産を後妻に相続させる」という遺言書を書いても、前妻の子の遺留分(民法第1042条)まではなくせません
- 遺留分を侵害された相続人は、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます(民法第1046条)。2019年7月1日以降に開始した相続では、金銭債権として扱われます
- 現実的な備えは「遺留分を織り込んだ遺言書」「遺留分の生前放棄(民法第1049条・家庭裁判所の許可が必要)」「支払い原資の準備」の3点セットです
「離婚して30年、一度も会っていない前妻の子に、今の家族の財産を渡したくない」。西東京市・東久留米市の当センターにも、こうしたご相談が寄せられます。お気持ちはよく分かりますが、法律上、前妻の子を相続から完全に外すことは原則としてできません。
ただし、「何もできない」わけではありません。この記事では、前妻の子が相続人になる法的な根拠を確認したうえで、遺留分の計算方法と、生前にできる現実的な備えを整理します。
前妻の子は必ず相続人になる(民法第887条第1項)
民法第887条第1項は「被相続人の子は、相続人となる」と定めています。ここでいう「子」に、婚姻中に生まれた子か離婚後の子かという区別はありません。離婚したのは夫婦であって、親子関係は離婚によって切れないからです。
そのため、次のような事情があっても、前妻の子の相続権はなくなりません。
| よくある誤解 | 法律上の取扱い |
|---|---|
| 親権を前妻が取ったから相続権はない | 親権と相続権は別の制度。相続権は残る |
| 養育費を払っていないから相続権はない | 養育費の支払いの有無は相続権に影響しない |
| 前妻が再婚し、子は再婚相手と養子縁組した | 普通養子縁組であれば実親との親子関係は続くため、実父の相続権も残る |
| 何十年も連絡を取っていない | 交流の有無は相続権に影響しない |
| 前妻の子が先に亡くなった | その子(孫)が代襲相続する(民法第887条第2項) |
なお、元配偶者である前妻自身には相続権がありません。離婚により配偶者の地位を失うためです。この点は元配偶者に相続権はない|離婚後の相続関係を図で整理で詳しく解説しています。
遺言書を書いても遺留分は残る
「全財産を妻○○に相続させる」という遺言書を作れば、遺産分割協議をすることなく、後妻がすべての財産の名義を変えることは可能です。ここまでは遺言書の効力どおりです。
しかし、遺言書があっても、前妻の子には遺留分という最低限の取り分が残ります。民法第1042条は、兄弟姉妹以外の相続人に遺留分を認めています。遺留分は遺言書によって奪うことができない権利です。
遺留分の割合
遺留分の総額(総体的遺留分)は次のとおりです。
| 相続人の構成 | 遺留分の総額 | 根拠 |
|---|---|---|
| 直系尊属(父母・祖父母)のみ | 遺産の3分の1 | 民法第1042条第1項第1号 |
| 配偶者・子が含まれる場合 | 遺産の2分の1 | 民法第1042条第1項第2号 |
| 兄弟姉妹 | 遺留分なし | 民法第1042条第1項柱書 |
個々の相続人の遺留分は、この総額に各自の法定相続分を掛けて計算します(民法第1042条第2項)。
ケース別の遺留分
| 家族構成 | 前妻の子の法定相続分 | 前妻の子の遺留分 |
|---|---|---|
| 後妻+前妻の子1人 | 2分の1 | 4分の1 |
| 後妻+前妻の子1人+後妻の子1人 | 4分の1 | 8分の1 |
| 後妻+前妻の子2人+後妻の子1人 | 6分の1 | 12分の1 |
| 後妻なし・前妻の子1人+後妻の子1人 | 2分の1 | 4分の1 |
たとえば「後妻+前妻の子1人+後妻の子1人」で遺産が4,000万円の場合、前妻の子の遺留分は8分の1にあたる500万円が目安です。実際の請求額は、生前贈与の有無や債務の額によって変わりますので、あくまで概算とお考えください。法定相続分の考え方もあわせてご確認ください。
遺留分侵害額請求とは(民法第1046条)
遺留分を下回る取り分しか得られなかった相続人は、多くを受け取った人に対して、侵害された額に相当する金銭の支払いを請求できます。これが遺留分侵害額請求です。
2019年7月1日に施行された改正民法により、この請求は金銭債権として整理されました。それ以前の「遺留分減殺請求」では不動産などが当然に共有状態になっていましたが、現在は原則として金銭で解決します。自宅が共有になってしまうリスクが減った一方で、請求された側は現金を用意しなければならないという新たな課題が生まれています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 請求できる人 | 配偶者・子(およびその代襲相続人)・直系尊属。兄弟姉妹は請求できません |
| 請求の内容 | 侵害額に相当する金銭の支払い(民法第1046条第1項) |
| 期間の制限 | 相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、相続開始の時から10年(民法第1048条) |
| 支払いが難しい場合 | 裁判所に対し、相当の期限の許与を求めることができます(民法第1047条第5項) |
請求は必ずしも裁判で行う必要はなく、まずは内容証明郵便などで意思表示をするのが一般的です。話し合いがつかなければ、家庭裁判所の調停へ進みます。詳しくは遺留分とはもご覧ください。
生前にできる現実的な備え
遺留分をゼロにすることはできませんが、「揉める幅」を小さくしておくことはできます。当センターでご提案することが多い方法を整理します。
1. 遺留分を織り込んだ遺言書を作る
「前妻の子には何も渡さない」という遺言書は、かえって遺留分侵害額請求という争いを招きます。むしろあらかじめ遺留分相当額を前妻の子に渡す内容にしておくほうが、結果的に後妻や今の家族を守ることにつながります。
あわせて、遺言書の末尾に付言事項として、なぜこの分け方にしたのかを自分の言葉で書き添えることをおすすめしています。法的な効力はありませんが、感情的な対立を和らげる効果が期待できます。改ざんや紛失を避けるため、公正証書遺言での作成が安心です。書き方の基本は遺言書の作り方をご確認ください。
2. 支払い原資を用意しておく
遺留分侵害額請求は金銭での請求です。財産の大半が自宅不動産という場合、請求されても払えず、自宅を売らざるを得ないという事態が起こりえます。
そこで、生命保険を活用する方法があります。死亡保険金は受取人固有の財産とされ、原則として遺産分割の対象になりません。受取人を後妻にしておけば、遺留分の支払い原資として使える可能性があります。ただし、保険金額が遺産全体に比べて著しく大きい場合には、例外的に特別受益に準じて持ち戻しの対象と判断された裁判例もあります。金額のバランスには注意が必要です。生命保険金と相続もご参照ください。
3. 遺留分の生前放棄(民法第1049条)
前妻の子本人の協力が得られる場合には、相続開始前に遺留分を放棄してもらう方法があります。ただし、これには家庭裁判所の許可が必要です(民法第1049条第1項)。許可されるかどうかは、放棄が本人の自由な意思によるものか、放棄に見合う代償(生前贈与など)があるかといった点から個別に判断されます。
本人の同意なく進められる手続きではないため、実際に使えるケースは限られます。なお、相続放棄は相続開始後でなければできず、生前に「相続を放棄する」という念書を書いてもらっても効力はありません。
4. 生前贈与は「時期」に注意
今の家族に生前贈与をしておく方法もありますが、遺留分の計算では一定期間の贈与が算入されます。相続人に対する贈与のうち特別受益にあたるものは相続開始前の10年間、相続人以外への贈与は原則として相続開始前の1年間が対象です(民法第1044条)。直前の駆け込み贈与では効果が期待しにくい点にご注意ください。
5. 廃除はハードルが高い
被相続人に対する虐待や重大な侮辱、著しい非行があった場合には、家庭裁判所に推定相続人の廃除を請求できます(民法第892条)。廃除が認められれば相続権も遺留分も失われますが、認められるのは相当に悪質な事情がある場合に限られ、「疎遠だから」という理由では通りません。相続廃除と相続欠格で詳しく解説しています。
まとめ
前妻の子は、親権・養育費・交流の有無にかかわらず第一順位の相続人であり、遺言書によっても遺留分(民法第1042条)まではなくせません。侵害があれば金銭での支払いを請求されます(民法第1046条)。
現実的な対策は、遺留分をなくすことではなく、遺留分を織り込んだ遺言書を作り、支払い原資を準備しておくことです。西東京市・東久留米市・清瀬市・新座市で、前妻の子がいる相続の設計にお悩みでしたら、早めにご相談ください。
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よくある質問
Q. 前妻の子に一切財産を渡さない遺言書は無効ですか?
遺言書自体が無効になるわけではありません。遺言の内容どおりに名義を変えることも可能です。ただし、前妻の子から遺留分侵害額請求(民法第1046条)を受けた場合には、遺留分に相当する金銭を支払う必要が生じます。
Q. 前妻の子が遺留分を請求してこなければ、どうなりますか?
遺留分侵害額請求は権利者が自ら行使する必要があり、請求がなければ遺言の内容がそのまま維持されます。また、相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年、相続開始の時から10年で権利は消滅します(民法第1048条)。
Q. 前妻の子が未成年の場合はどうなりますか?
相続権も遺留分も、成年・未成年で違いはありません。遺産分割協議が必要な場合は、親権者である前妻が法定代理人として参加します。ただし、未成年の子が複数いて互いに利益が相反する場合などには、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。
Q. 前妻の子の連絡先が分からないのですが、遺言書は作れますか?
遺言書の作成に、前妻の子の同意も連絡も必要ありません。ご自身の意思だけで作成できます。一方、遺言書がないまま相続が発生した場合には、前妻の子を含む全員で遺産分割協議を行う必要があり、所在の調査から始めることになります。探し方は前妻の子の連絡先が分からない場合の探し方をご確認ください。